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社説・コラム

オピニオン芸南&賀茂 映画監督・片渕須直さん 戦時中の生活 リアルに

 戦争末期の呉市と広島市を舞台に描くアニメ映画「この世界の片隅に」の片渕須直監督(54)が呉市内で講演した。広島経済同友会呉支部の主催。戦時中の呉の様子と市民の暮らしを主題に語った。

 映画は広島市西区出身の漫画家こうの史代さんの原作。広島生まれの女性、すずが戦時中、軍都呉に嫁ぐ物語だ。

 私たちは、こうのさんの漫画を宝物にしている読者とも向き合っている。だからまず自分が最良の読者になって漫画に何が描かれているのかを一番に理解しなければならない。

 制作過程を例に挙げる。嫁いだすずが1944年4月、夫と一緒に呉市長ノ木町の段々畑で呉湾を眺めていると(戦艦)大和が入港してくる場面がある。このシーンを描くため大和の入港日を調べることから始めた。さまざまな資料を読み、4月17日だと分かった。

 続いて呉鎮守府の戦時日誌を集め、17日の天気、気温、視界を調べた。薄曇りだが遠くまで見渡せ、いつもの年の4月より暖かかったという。ここまで分かると、より情景をリアルに描ける。

 当時の時代背景や人々の営みを理解する。そこを基点にどんどんイメージが拡張していき、当時の「世界」を描けるようになる。そのために膨大な資料を集め、ひもとき、再現するよう努めている。

 アニメーションは昔は専ら子どものためのものだった。ここ何十年かは若者のためのものになった。しかしこの映画で語ろうとしていることは、若者の興味を引くものとは少し違うかもしれない。

 映画は見てくれた人の心の中で完成する。自分からアニメーションにアプローチしない大人にこそ見てほしい。何かを感じてもらえる映画にしたい。(小笠原芳)

(2015年7月31日朝刊掲載)

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