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社説・コラム

『書評』 郷土の本 「歩きだした日」「様々な予感」「めぐりくる夏」 女主人3代記に戦後広島重ねる

 児童文学作家の那須正幹さん(73)=防府市=が、ヒロシマを描いた小説の3部作「歩きだした日」「様々な予感」「めぐりくる夏」。戦後広島の歩みを、お好み焼き店の女主人の3代記に重ねた、2011年発表の作品。被爆70年の今年、文庫化された=写真。

 「歩きだした日」は、被爆から4年後。市橋靖子は娘の和子を養うためにお好み焼き店を開く。「様々な予感」では、高校生になった和子が卒業後に上京。そんな折、母が病に倒れたとの報が届く。「めぐりくる夏」は、和子の娘志乃が、自らの出生の秘密に悩みながら進む道を決めていく。

 那須さんは3歳の時、広島市庚午北町(現広島市西区)の自宅で被爆した。作家となり、ヒロシマを題材にしたノンフィクションや絵本を手掛けてきたが、「自分史を書きたい」との思いがあった。戦後の広島とともに歩んで来たお好み焼きをモチーフに、自らの半生も重ねている。

 那須さんは「あの日の苦しみや悲しみを乗り越え、戦後を生きてきた庶民の生きざまを描きたかった。被爆体験のない世代にも読んでほしい」と願う。306~386ページ。各734円。ポプラ文庫。(石井雄一)

(2015年8月2日朝刊掲載)

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