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原民喜初期作品 一冊に 没後60年 広島花幻忌の会が刊行準備 資質の発芽現す短編群

 没後60年となる広島市出身の作家、原民喜(1905~51年)の初期作品集の刊行準備を、市内の研究グループ「広島花幻忌の会」が進めている。「夏の花」など、戦後作品にも通じる資質の芽生えを現す作品群。同会では11月の発刊を目指している。(伊藤一亘)

 収録するのは全て短編で、自死した民喜が生前に出版を想定し、テーマを付けてまとめた「幼年画」シリーズの9編と、「死と夢」シリーズの10編。これまで「定本原民喜全集」(青土社、78年)などに収められたことはあるが、同全集絶版後は読むのが困難になっていた。

 作品の大部分は、結婚して家庭が幸せに満ち、文学的にも充実期を迎えた昭和10年代に文芸雑誌「三田文学」などに発表された。「幼年画」は少年時代の思い出を基にした自伝的作品。「死と夢」は主人公が自らの葬列に出合う「行列」など幻想的な世界を描く。

 少年時代に直面した父や姉の死と、色濃くなる戦争への不安が重なって生み出されたとみられる。同会の海老根勲事務局長は「透明感あふれる文体と細かい観察眼は、戦後作品にも通じる民喜の資質。『夏の花』など原爆を扱った作品で知られる民喜だが、それ以外の優れた作品を知ってもらう機会になれば」と話している。

 刊行に当たり、会では旧仮名遣いを現代仮名遣いに手直しし、解説も添える。240ページ前後、千円での販売を予定。予約も募っている。広島花幻忌の会Tel082(924)7950=海老根さん。

(2011年8月9日朝刊掲載)

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