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どう見る安保関連法案 外交ジャーナリスト・手嶋龍一さん 台湾海峡有事を論ぜよ 国会審議は机上の議論

 安全保障関連法案をめぐる国会審議は、机上の議論を繰り返している。国際情勢がきちんと議論されていない。何より台湾海峡での有事について論じられていない。起こってほしくない事態だが可能性はある。想定して論じないと、法制と現実が乖離(かいり)する。

米中の直接衝突

 集団的自衛権の行使を想定するケースとして政府は、朝鮮半島での有事発生を挙げている。衆院での審議で安倍晋三首相は、朝鮮半島有事の際に「公海上で警戒監視に当たる米軍の艦船が攻撃されても守らなくていいのか」と提起。新3要件の範囲で武力行使をすると説明した。

 国会審議がゆがんでいるのは、朝鮮半島の有事だけが論じられているからだ。野党の責任も大きい。朝鮮有事は注意すべきだが、米国と中国の直接衝突はまずあり得ない。一方、台湾有事では、中国と米国が対決する可能性がある。グローバルな戦争が起こるほぼ唯一のシナリオだ。ここで米国と同盟関係にある日本の対応が問われる。

 国会で台湾有事への言及がないのは、中国が「内戦介入」と激烈な反応をすることが見込まれるからだろう。ただ、朝鮮半島有事とホルムズ海峡の閉鎖を議論するだけではリアリティーを欠く。法案への賛成、反対以前の問題だ。長く安全保障をテーマにしてきた私としては納得できない。

「平成の統帥権」

 元NHK記者。1995~97年ボン支局長、97年から2005年までワシントン支局長を務めた。ブッシュ大統領たち重要閣僚の単独インタビューを数多く経験。記者時代から外交安保関連の本を書き始め、多数の著書がある。

 私は安倍さんの狙いは、「平成の統帥権」を首相が握ることだと考えている。武力行使の新3要件なんて極めて抽象的だ。法が成立すれば、有事で首相に多くが委ねられる。国家安全保障会議(NSC)をてこにした統帥権だ。

 そのための安保法制だが、非現実的なケースを当てはめ無理をして通そうとしている。市民は細かな議論は分からなくても、「どうもあまり健全ではない」と気付いている。市民の直感は正しい。

 ただ、どの国も一国のみで、自国の安全を守ることはできない。国際社会がより協力しなければならない状況の中で、日本も役割を果たさなければいけない。憲法学者が安全保障の責任を負うわけではない。政治家もジャーナリズムも東アジアの現実に身を浸して、そこを出発点に考えなければいけない。(中島大)

(2015年8月4日朝刊掲載)

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