×

社説・コラム

天風録 「原爆資料館と50円」

 夏休みの思い出づくりの予算は8万9千円也(なり)。旅行やレジャーに使う1世帯当たりの額という。ここ10年で最も高いそうだが、広島でじっくり学ぶ夏はどうだろう。大枚をはたかなくても心に残る場所がある▲おとな50円。それで原爆資料館に入れる。被爆10年後の開館時に20円だったのを43年前に上げた。「もっとアップして被爆者福祉に」「むしろ無料に」。館の意義や平和都市の姿勢をめぐって熱い議論があったと聞く▲3年後のリニューアルを前に市は200円程度へのアップを検討中だ。本紙アンケートでは来館者の6割が支持し、ある米国人は「値上げに値する展示」とも。一ついえるのは、中身の充実あっての値上げということ▲日本では原爆投下の日時を知らぬ人が増えた。一方で米国人の意識に変化も。最近の調査では投下を正当化する人が依然半数近いが、誤りを認める声が若い世代に目立つという。今こそ資料館の発信力を一層強めたい▲オープンの翌年、あろうことか原子力の平和利用をうたう博覧会に使われたこともある。国策に揺れもした歩み。料金や展示を変えるとしても使命は一つである。核兵器の非人道性を訴え、廃絶を実現しなくては。

(2015年8月4日朝刊掲載)

年別アーカイブ