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社説・コラム

社説 辺野古移設一時中断 期限切らず徹底協議を

 沖縄の考え方に耳を傾けるというのだが、本当だろうか。

 きのうの菅義偉官房長官の発表には驚かされた。米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)を名護市辺野古沖に移転するため、進めてきた作業を1カ月間中断するという。「あらためて政府の考え方を県に説明し、問題解決に向けて集中的に協議するため」との理由である。

 これまで沖縄の中止要求を無視し続けた姿勢から一転したようにも映る。抗議を続ける人たちを半ば押しのけるように実施してきた海底ボーリング調査は止まり、防衛省が今夏にも予定していた本体工事の着工も先送りが確実となった。

 辺野古への移設に反対する地元沖縄の民意はさまざまな選挙で繰り返し示されてきた。工事をやめて話し合うのは当たり前のことであろう。

 沖縄県の側も用意していたカードを切るのを当面、見合わせるようだ。翁長雄志(おなが・たけし)知事も会見し、県の有識者委員会が前知事の埋め立て承認に「法的な瑕疵(かし)(欠陥)」を認めたのを受け、承認取り消しに踏み切る時期を遅らせる考えを示した。

 このまま対立が深まれば承認取り消しから法廷闘争に至る公算が大きくなっていた。官房長官もその点を憂慮したのだろう。ただ、知事は話し合いの努力は惜しまないと言う一方で「辺野古への移設は不可能とあらためて申し上げる」と強調した。政府がこれまでの延長線上で「辺野古移設ありき」の姿勢で協議に臨むようなら、何ら問題は解決しない。

 ここは辺野古への移設を根本から問い直すほかはない。

 なぜ沖縄が新たな基地負担を背負わなくてはならないのか。そこに向き合うことから始めるべきだ。1カ月で済む話とは思えない。期限を区切らずに徹底して協議するよう求めたい。しかも、その議論が県民から見える形にするのが肝心である。

 そもそも辺野古移設が唯一の選択肢としてきた政府の主張の妥当性はどうなのか。沖縄に地理的な優位性がある。普天間の部隊が県外に移転すれば抑止力が低下する。政府側が唱えてきた「常識」を洗い直したい。

 知事は先頃訪米し、沖縄の考え方をじかに伝えてきている。米国内にも辺野古移設を強行することへの懸念もあるという。この際、米当局者の本音も聞いてみる必要もあろう。

 サンゴ礁などの環境保全の問題も十分に議論すべきだ。政府は工事中断とともに、在日米軍が立ち入りを制限する辺野古沿岸部で県が求めていた潜水調査も許可するという。沖縄防衛局のボーリング調査でサンゴ礁を傷つけた可能性もある。環境対策が十分に考慮されているのかも確かめる機会にしたい。

 政府側の姿勢からは安全保障関連法案の審議が進むにつれ、支持率が下がっている安倍政権へのこれ以上のダメージを避けたい意図が透ける。自民党の若手勉強会で沖縄を中傷する発言があったことも、あるいは影響しているのかもしれない。

 国と県の対立を泥沼化させた原因が政権の側にあるのを忘れてはならない。政治の思惑によるその場しのぎの協議では意味がない。何の成果もないまま、ほとぼりを冷まして再び作業を強行するようなら沖縄の不信感を募らせるばかりとなろう。

(2015年8月5日朝刊掲載)

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