×

ニュース

原発反対派が擁立断念 山口県上関町長選 現職の続投を黙認

 中国電力上関原発(山口県上関町)建設計画の反対運動を主導する地元の住民組織全3団体が、任期満了に伴う上関町長選(9月1日告示、6日投開票)への候補者擁立を断念したことが4日、分かった。1982年の計画浮上以降に行われた全ての町長選に候補者を立てて原発建設の是非を町民に問うており、無投票になれば初の事態。「原発計画に進展がない現状、原発財源に頼らないまちづくりを優先する必要があると判断した」としている。

 原発推進の立場で3選してきた柏原重海町長は、4期目を目指す意向を既に表明。2011年の福島第1原発事故以降、上関原発の準備工事は中断しており、再開を望む商工業や建設業など推進6団体の支援を受ける。反対派は柏原氏の続投を黙認する格好となる。

 政府は原発新増設の是非について方針を示しておらず、針路の見通せない状況が長期化する。凍結状態が4年以上に及ぶ中、町は道の駅整備による観光振興や売電収入を得る風力発電事業の検討など自主財源の確保に力を入れる。柏原氏は立候補表明に際して「原発は国策であり見守る立場」と主張。国の原発交付金が入らないことを想定したまちづくり指針もまとめた。

 擁立見送りを決めた上関原発を建てさせない祝島島民の会の清水敏保代表は「原発計画は次の4年間も恐らく動かない。柏原氏には一定の評価をしており、推進、反対の立場を超えてまちづくりで協力したい」と説明。「原発反対とは分けて取り組む」とした。ただ原発反対で審判を仰がない判断は、町内外に波紋を呼びそうだ。

 83年以降の9回の町長選は、推進派候補が反対派候補との対決を全て制している。無投票になれば36年ぶり。5日に立候補予定者説明会がある。

【解説】「脱交付金」の町政 評価

 上関町長選で上関原発計画の反対派が候補者擁立を断念した背景には、計画の凍結状態が長引く中、原発財源に依存しない方向性を打ち出した今の町政を定着させたい思いがある。政府は新増設に関する方針を示さず、国策に翻弄(ほんろう)され続けて町は疲弊した。原発の是非が争点として後退するとともに、反対派の結束のほころびも影響しているようだ。

 町の2015年度当初予算は14年度当初比25・7%減の32億5900万円。財源不足は3億3千万円に上った。将来の財源として想定した上関原発の本体着工後に受け取る交付金が見込めない一方、高齢化率は5割を突破。予防接種の全額助成を一部に切り替えるなど、住民サービスを切り詰める努力も迫られている。

 計画推進の立場にある柏原重海町長は、売電収入を目的に風力発電事業を検討。自然エネルギーへの着眼や観光振興などの施策は反対派から一定の評価も得ている。11年の福島第1原発事故を機に、現状への危機感を賛否を超えて共有する土壌ができたといえる。

 ただ、今回の擁立断念は反対派の内情も反映する。福島の事故から半年後にあった前回選は、反対派候補者の得票率が過去最低の32・6%にとどまった。祝島の漁業者は13年、反対運動の象徴としてきた漁業補償金の受け取り拒否を覆す議決もしている。結束を固めきれなかった側面もうかがえる。(井上龍太郎)

(2015年8月5日朝刊掲載)

年別アーカイブ