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広島あす原爆の日 被爆70年 平和への底力

 緑あふれる町並みや温かな市民の営みを取り戻す日を、きのこ雲の下で想像できただろうか。広島は6日、原爆の日を迎える。無差別に命を奪い、街を壊滅したばかりか、放射線の影響で「70年は草木も生えない」とまで言われた米国の原爆投下から、その70年がたつ。非人道的な惨禍を乗り越えて復興はした。ただ同じ歳月、苦難の道を歩んだ被爆者が希求し続けた「核兵器なき世界」はなお見通せない。

 1945年8月6日は、ヒロシマの街の出発点となった。看護学生は傷つき、白衣を血で染めながら目の前の命と向き合った。人々の暮らしを守るため、壊れた水道や電力の復旧へ焦土で歯を食いしばった人もいた。

 水を飲む、電気を使う、病気になれば病院にかかる―。築き直した日常は、核兵器がひとたび使われれば、また一瞬で消し飛んでしまう。戦後70年でもある。国内では、集団的自衛権の行使を可能にする安全保障関連法案をめぐり「戦争に巻き込まれるのでは」との声も上がる。

 核兵器の非人道性に対する理解は世界に確実に広がってきた。4、5月に米ニューヨークで開かれた5年に1度の核拡散防止条約(NPT)再検討会議では、非人道性を訴えて核兵器の不使用を求める共同声明に過去最多の159カ国が参加した。同趣旨の声明は3年間で6回目だ。

 同時に会議は、廃絶の高い壁を見せつけた。法的な核兵器禁止の議論の土台となりうるオーストリア政府主導の「人道の誓約」に閉幕までに賛同したのは107カ国。核兵器保有国のみならず、被爆国の日本も加わっていない。会議自体は中東の非核地帯構想をめぐって決裂したが、核に頼る国が法的禁止の流れが強まるのを嫌っているのは間違いない。

 核兵器を「絶対悪」と呼び、廃絶の先頭に立ってきた被爆者は2014年度末で18万3519人となり、最も多かった80年度の半数を割った。平均年齢は80・13歳だ。心身に刻まれた被爆者の体験を直接聞き、ともに動ける残された時間を、私たちは無為に過ごすわけにはいかない。

 ことし4月、被爆証言を3年の研修で受け継いだ被爆体験伝承者が語り始めた。その壮絶な体験は被爆者にしか語れないかもしれない。それでも託される思いを消化し、発信できる手だてはあるはずだ、と。原爆犠牲者の遺品が伝える悲しみもあれば、若者の純粋な活動から広がる平和への願いもある。ヒロシマの底力が問われている。(岡田浩平)

(2015年8月5日朝刊掲載)

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