×

ニュース

復興と鎮魂 70年の重み 広島原爆の日 平和宣言「今こそ行動を」 首相、非核三原則触れず

 戦争で初めて米国が広島に原爆を落として70年となった6日、広島市は中区の平和記念公園で市原爆死没者慰霊式・平和祈念式(平和記念式典)を営んだ。松井一実市長は平和宣言で核兵器を「非人道の極み」と呼び、廃絶へ「行動を始めるのは今」と訴えた。平均年齢が80歳を超えた国内外の被爆者や遺族、市民たち約5万5千人が参列。「70年は草木も生えない」と言われながら復興を遂げた街に、平和な世界を願う市民たちの祈りが広がった。(岡田浩平)

 式典の海外来賓は過去最多の100カ国と欧州連合(EU)。米国からはキャロライン・ケネディ駐日大使と共に、政府高官として初めてローズ・ガテマラー国務次官が出席した。

 晴れ渡る空の下、式典会場はことしからほぼ全面を大型テントで覆われた。午前8時に開式。この一年に亡くなったか、死亡が確認された広島の被爆者5359人の名前を書き加えた原爆死没者名簿3冊を松井市長と遺族代表2人が原爆慰霊碑の石室に納めた。名簿は109冊計29万7684人分になった。

 献花に続き、原爆投下時刻の8時15分から1分間、遺族代表の酒販業事務員仲川弘美さん(38)=中区、こども代表の段原小6年東川悠輝君(12)=南区=が「平和の鐘」を突き、全員で黙とうした。

 松井市長は平和宣言で、「広島をまどうてくれ(元通りにしてほしい)」と、被爆者の叫びを代弁した。核兵器がある限り、その被爆者を新たにつくる可能性を指摘。核兵器禁止条約を含む法的枠組みの議論開始へ、オバマ米大統領たち各国のリーダーに被爆地訪問を呼び掛け、日本政府にも議論を主導するよう提案した。

 集団的自衛権の行使を可能にする安全保障関連法案には直接触れず、武力に依存しない幅広い安全保障の仕組みづくりと、憲法の平和主義が示す「真の平和への道筋」の浸透をリーダーたちに求めた。

 「平和への誓い」では、白島小6年桑原悠露君(12)=中区=と矢野南小6年細川友花さん(11)=安芸区=が、昨年8月20日の広島土砂災害で山本小(安佐南区)5年生だった平野遥大(はると)君=当時(11)=が亡くなったのを念頭に「大切な人を失う悲しみは想像できる」と強調。被爆者の願いを「私たちの平和への思いとともにつないでいく」と声をそろえた。

 安倍晋三首相はあいさつで「核兵器なき世界」への努力を誓った。非核三原則には触れなかった。

 ことし3月末時点で、被爆者健康手帳を持つ被爆者は18万3519人、平均年齢は80・13歳となった。

平和宣言骨子

 ・広島は一発の原爆で破壊され、45年暮れまでに外国人を含め14万人もの人が亡くなった。「広島をまどうてくれ!(元通りにしてほしい)」が被爆者の叫び
 ・為政者が核による威嚇にこだわる言動を繰り返し、テロリストによる使用も懸念され、いつ誰が被爆者になるか分からない。核兵器廃絶へ行動を始めるのは今だ
 ・為政者に対し「人類愛」と「寛容」の行動理念に基づき、武力に依存しない幅広い安全保障の仕組みや、日本国憲法の平和主義が示す真の平和への道筋を広めるよう求める
 ・広島市は被爆の実相を次世代に伝える取り組みを強化する。2020年までの核兵器廃絶と禁止条約の交渉開始の流れを加速させるため全力で取り組む
 ・来年の主要国首脳会議や広島での外相会合は、核兵器廃絶に向けたメッセージを発信する機会。オバマ米大統領たち為政者に被爆地訪問を呼び掛け、禁止条約を含む法的枠組みの議論を始める必要を確信してもらう。日本政府にも議論開始を主導するよう期待する

(2015年8月7日朝刊掲載)

年別アーカイブ