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平和公園で100人にアンケート 広島原爆の日

 「原爆の日」に平和記念公園(広島市中区)を訪れた100人を対象にしたアンケート。被爆70年の節目に各地から集ったさまざまな年代の人たちは、核兵器廃絶の道筋が見えない現状を憂い、被爆地がさらなる役割を果たすことに期待を込めた。

Q 被爆の実態を伝え続けるための有効な取り組みは

「学校での教育」が最多

 被爆者の平均年齢はことし80歳を超え、体験の風化は避けられない状況だ。広島市はその記憶を引き継ぐ「被爆体験伝承者」を養成し、今春1期生50人が講話活動を始めるなど、模索が続いている。被爆の実態を次代に伝えていくため、どんな取り組みが効果的と思うか。複数回答で尋ねた。

 近年では広島でさえ、原爆投下の日時を正確に答えられない子どもが増えている。そんな中、64人が「学校での平和教育を活発にする」ことが継承に有効な手段とし、最多だった。

 「被爆2世や3世たち、被爆者の家族が記憶を受け継ぐ」42人、「原爆・平和について身近な場で日常的に語り継ぐ」40人と続いた。家族や友人、同僚、近隣同士で語り合い、自分にも関わりのあることだと認識した上で、悲劇を二度と繰り返さない意識を醸成することが重要との思いが見て取れる。

 「次世代の語り手やガイドを育てる」は36人。被爆体験伝承者などの取り組みを回答者は評価し、さらなる活性化を望んでいることがうかがえる。

 また31人が「原爆資料館などに収まる被爆の記録を充実させ、活用を進める」と回答。被爆資料が持つ発信力をさらに磨いていく必要性を指摘した。「原爆についての映画や文学など文化的な表現を盛んにする」は24人。「戦争体験のある世代が証言活動に一層力を注ぐ」「原水爆禁止などの平和運動を盛り上げる」はいずれも14人だった。

 提案も相次いだ。

 「広島に来れば平和のことが学べるような街全体の仕組みづくり」(26歳男性・京都市左京区)「平和記念公園に来て学ぶ人を増やす工夫」(25歳女性・東京都江戸川区)など、行政に努力を促す内容も。

 「インターネットをさらに活用し、世界に平和の精神を伝える」(49歳男性・広島市安芸区)「平和について考えてもらうため、政府は8月6日を休日にすべきだ」(67歳男性・広島市南区)などのアイデアも寄せられた。

 被爆70年に合わせて中国新聞社が全国の被爆者を対象にした先のアンケートでも、「平和教育」が45・7%でトップだった。「被爆2世や3世たち、被爆者の家族が記憶を受け継ぐ」が37・2%で続き、「原爆・平和について身近な場で日常的に語り継ぐ」は23・5%だった。

Q 平和宣言で安保法案に触れなかったことをどう思うか

「明確に反対を」の声も

 広島市の松井一実市長は6日の平和記念式典で読み上げた平和宣言で、集団的自衛権の行使を可能にする安全保障関連法案に直接言及しなかった。これに対する評価は分かれた。

 参院で審議中の安保関連法案をめぐっては、多くの憲法学者たちが「違憲」と指摘。市民の間でも戦争に巻き込まれることにつながるのでは、との懸念も根強い。もう一つの被爆地、長崎市の田上富久市長は9日に読む平和宣言で、政府に慎重審議を求めるとの方針を示している。

 松井市長が今回の平和宣言で安保関連法案に「触れるべきだった」としたのは44人。理由として「核兵器廃絶を訴えるなら、戦争につながる法案に触れるのは当然」(71歳男性・廿日市市)「平和都市だからこそ、反対の立場を明確に出してほしかった」(30歳女性・大阪府豊中市)などの意見が目立った。

 法案に触れなかった理由について、松井市長は事前の記者会見で「国内の議論を超え、世界での議論に耐えうる平和の考え方を示す方が宣言として重みがある」と説明していた。宣言では「日本国憲法の平和主義が示す真の平和への道筋を世界へ広めることが求められる」とも表現した。

 一方、触れなかったことについて「問題ない」と答えたのは39人だった。「原爆犠牲者を追悼する場であり、政治的な話題を持ち込むべきではない」(49歳男性・広島県府中町)「言及しても、法案への賛成派と反対派の摩擦を強めるだけ」(30歳女性・広島市中区)など、多くは無難な判断だったと評価した。

 「世界情勢と法案が複雑で市長が言及すべきものか判断できない」(34歳男性・東京都八王子市)などとし、触れるべきだったかどうか「分からない」とした人も17人いた。

Q 日本に米国の「核の傘」は必要か

ほぼ半数が「必要ない」

 日本の安全保障政策として米国の核兵器(核の傘)に頼ることについて、ほぼ半数の49人が「必要ない」と回答した。「必要」は28人、「分からない」は23人だった。

 不要とした理由は、「被爆国でありながら、原爆を落とした国に依存するのはおかしい」(83歳男性・千葉市)など。年代別でみると、80歳代は回答した5人のうち4人が「核の傘脱却」の立場だった。20歳代は15人のうち9人、40歳代は20人のうち11人と、いずれも過半数が原爆を投下した米国の核兵器を頼みにする安保政策の転換を求めた。

 一方で「今の日本だけでは守れない。防衛のためには仕方ない」(45歳女性・広島市東区)など、現在の国際環境は「非核」に徹しきれないとの認識も根強かった。60歳代は「必要」が5人で、「不要」の3人を上回った。70歳代は7人ずつの同数だった。

 先に行った全国被爆者アンケートでは「必要ない」が32・8%、「必要」22・9%で、ほかは「分からない」「無回答」だった。

Q 近い将来、核兵器をなくせると思うか

悲観的見方 大勢占める

 「近い将来に世界から核兵器をなくせると思うか」との問いには、65人が「思わない」と答え、「思う」21人、「分からない」14人を大きく引き離した。ことし4、5月に米ニューヨークであった核拡散防止条約(NPT)再検討会議の決裂や、米国とロシアの関係悪化など厳しい国際情勢を反映してか、悲観的な見方が大勢を占めた。

 年代別では、「思う」が「思わない」を上回ったのは40歳代のみ。とりわけ戦争体験のある70~90歳代の見方は厳しく、「思う」は22人のうちわずか1人だった。「思わない」は17人に上った。

 先に行った全国被爆者アンケートも「思う」13・0%、「思わない」58・2%。さらに在外被爆者を対象にしたアンケートでも「思う」9・6%、「思わない」61・1%と大差がついている。

 あの日から70年。被爆者が悲惨な体験を語り、核兵器廃絶を求める声を上げ続けても、道筋が見えてこないことへの失望が透ける回答となった。

(2015年8月7日朝刊掲載)

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