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社説・コラム

『記者縦横』 歴史刻む資料の散逸防げ

■尾道支局・新山京子

 70年前の警防団日誌。7月28日の欄に、警戒・空襲警報の発表や解除の時刻が並ぶ。「午前11時45分」。それから約7分間にわたり、尾道市因島の軍需工場や住宅街を戦闘機が襲ったとの記述が生々しい。

 1945年3月と同7月にあった因島空襲。犠牲者の数は分かっておらず、被害を伝える文書もほとんど残っていないとされていた。だが、約2カ月間の取材で、空襲があった時刻を記す地元警防団の日誌や当時の惨状を克明につづった元英国人捕虜の日記、爆撃を受けて沈没した船の写真などが次々と見つかった。

 警防団の日誌は、一部のコピーを地元住民が保管していたが、原本の所在が分からなかった。関係者を取材して歩いたが見つからず、望みをかけて市に情報公開請求した。すると、因島消防署に昔の防空服や資料と並べて置かれていたことが分かった。市消防局によると、中身を検証したことはなかったという。

 自治体合併の際に破棄された資料もあるのではないかと聞いた。島の空襲を独自に研究し、さまざまな証言を聞き取ったノートや地図、写真などを保管している地元の人たちも高齢になっていく。今後、これらの貴重な資料が散逸してしまわないか、不安もよぎった。

 市は1日、新たな市史を編さんするための初会合を開いた。2028年度までに計10巻を刊行する方針だ。失われつつある資料の保存と検証をどのように進め、地域の歴史を継承していくのか再考し、早急に対策を講じてほしい。

(2015年8月7日朝刊掲載)

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