×

社説・コラム

『記者縦横』 世界中の共感に思いを

■ヒロシマ平和メディアセンター・金崎由美

 「本当に悔しくてたまらなかったですよ」

 広島市などが米国ワシントンで開いた原爆展に合わせ、6月に訪米した被爆者の山本定男さん(84)。B29爆撃機「エノラ・ゲイ」号があるスミソニアン国立航空宇宙博物館に足を延ばした。70年前、空を見上げて目にした、あの機体。被害について言及はないまま、ただ誇らしげに展示されていた。やるせなかった。

 でも、希望もあると思った。「博物館に抗議している人や、証言を熱心に聞いてくれる人も米国にいた。諦めず語らねば」

 無知や無関心、歴史の曲解という壁。被爆者に思いを寄せる世界の市民の良心。山本さんが語る通り、どちらも本当だ。私もあらためて実感している。

 米国と英国などで活動する市民団体から連絡があった。日本の6日午前8時15分に合わせ、核兵器施設の前などで一斉に黙とうし、数日間の断食に入ったという。「ヒロシマの訴えに背を向け、核保有を続ける自国政府に抗議したい」。原爆被害の痛みを思う、という意思表示でもある。

 米国の核戦力を支える施設が集まるニューメキシコ州からは、地元の子や市民が千羽鶴を仕上げたと写真が届いた。大ぶりな作品に悪戦苦闘の跡がにじむ。

 被爆地を訪れるお金や時間がなくても、ありったけの想像力と感受性で、犠牲者を悼む人たちがいる。たとえ被爆地から関心を持ってもらえずとも。世界の片隅にある、見えにくい共感の輪にも思いを致したい。

(2015年8月7日朝刊掲載)

年別アーカイブ