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宗教者 平和への役割探る 宗派超え広島で核廃絶シンポ 対話と交渉の必要性を確認

 被爆70年に合わせて6日、広島市中区のホテルであったシンポジウムは「二度と戦争を起こさない―核兵器廃絶をめざして」をテーマに、平和を実現するために宗教者が果たす役割を探った。神道、仏教、キリスト教、イスラム教などの宗派を超えて集う初の取り組み。心の面から平和を説く大切さや、憎しみを超えた幅広い対話の必要性を確認した。(桜井邦彦)

 13カ国から市民を含む約250人が参加。冒頭で、主催団体の一つでカトリック信徒の国際団体「聖エジディオ共同体」(イタリア)のアルベルト・クワトルッチ事務局長(62)は「戦争が人の心から起こるように、平和もわれわれの心から創り出される」と強調。「宗教にとって記憶と伝統は宝。過去の痛みを忘れず、平和な未来を築く学びを」と説いた。ジョセフ・チェノットゥ駐日バチカン大使は「困難な状況でも、対話と交渉が必要」と力説した。

 13歳で入市被爆した広島東照宮(広島市東区)の久保田訓章宮司(83)は証言に立った。当時の市内の様子を「地獄」と表現し、「こんな思いを誰にもさせてはならないというのが、被爆者共通の強い思いだが、忘れられた歴史は繰り返される」と危機感を示した。

現状を危険視

 シンポは、聖エジディオ共同体が超宗派の世界連邦日本宗教委員会、世界宗教者平和会議(WCRP)日本委員会に呼び掛けて、合同で企画。2部に分けて4人ずつが登壇して意見を交わし、平和を実現するための宗教者の役割を探った。

 「核兵器廃絶の課題」について、アブドッラー国王宗教・文化間対話のための国際センター(オーストリア)のファイサル・ムアンマル事務総長(56)は、憎しみや恐れなどから対立や紛争が広がり、核兵器保有競争の悪循環が起きている現状を危険視。「対話でこそ持続可能な平和を創ることができる」と強調した。

 会場からは、原爆投下が戦争を終わらせ、米国人を救ったと考える人が米国内に依然多い点を指摘し、認識が違う人同士の対話の在り方に疑問が出された。ムアンマル事務総長は「広島を訪ねて過去を学び、宗教指導者が政治に関係する人を動かさないといけない」と説いた。

市民とも協力

 2部の「今後の核兵器廃絶への行動」では、宗派を超えた幅広い宗教間の連帯、市民運動に取り組む団体との協力などの提言が出された。

 シンポの最初にあいさつした広島市の松井一実市長は「志を同じくする者として心強い。皆さんの議論の成果を世界へ発信し、核兵器廃絶への取り組みをリードしてほしい」と期待を寄せた。

 核兵器禁止条約の締結に向けた交渉開始を、各国政府に促していくことなどを盛り込んだ共同アピール文も採択。インターネットなどを通じ世界に向けて発信する。

 議論を終え、天台宗の元宗務総長でWCRP日本委員会の杉谷義純理事長(72)は「人間の倫理観を目覚めさせるため、宗教者は、理念にとどまらず動かないといけない。きょうを、そのスタートラインにしたい」と決意を新たにしていた。

(2015年8月10日朝刊掲載)

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