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社説・コラム

天風録 「福島と川内」

 時が止まっていた。地震で倒れた民家や雑草に覆われたコンビニ。福島第1原発の取材に向かう途中で見た光景が忘れられない。あの事故で人の姿が消えた町の行く末を思い、胸が苦しくなった▲原発の敷地に入ると、さらに息をのんだ。津波で押し流されたがれきや車は放射線量が高く手が付けられないという。持参した線量計がピーピーと鳴る。原発が制御不能になれば、どうなるか。そのことを肌で感じた▲「ごせやける」。避難生活を続けるお年寄りは、そんな方言で思いの丈を明かした。胸が焼けるほど腹立たしい、との意味だ。暮らしを奪った事故から4年と5カ月。きょうの動きは、福島の人たちにどう映るだろう▲九州電力が川内(せんだい)原発再稼働に踏み切る。万が一の住民の避難も、核のごみの行方も見通せないまま。2年ぶりに原発を動かす大義名分となる新規制基準を国は「世界で最も厳しい」と胸を張る。だが冷ややかな視線を送る被災者に説得力はどこまで▲福島は今も「被災中」だ。それでも古里を取り戻そうと踏ん張る人々がいる。このまま3・11を忘れたかのような安全神話の復活を許していいか。「ごせやける」の訴えを私たちも忘れたくない。

(2015年8月11日朝刊掲載)

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