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「2011上関町長選」 受注ストップ 建設業者悲鳴

 中国電力が原発建設を計画する山口県上関町で、準備工事に期待した建設業者や、作業員の利用を見込んだ旅館業者が苦境に立たされている。福島第1原発の事故後に中断された準備工事は再開のめどが立たず、先行投資が経営を圧迫している。一方、専門家は「原発マネー」への依存度を高める原発立地自治体の産業構造の変化に警鐘を鳴らす。(久保田剛、堀晋也)

 24日、同町商工事業協同組合の事務所。「再開されないなら廃業も考えんといけん。どうすればいいんか」。町内の建設会社社長(62)はため息をついた。原発建設地の造成工事などをにらみ、数年前から技術者を増やしてきた。重機などのリース代に加え、人件費が重くのしかかる。

 町内の商工業者は1999年8月、中電や元請け業者からの工事、燃料・資材調達などの受注を目的に同組合を設立。組合が受注主体となり、希望する業者に仕事を割り振ってきた。所属する110業者のうち建設分野の23業者は原発関連工事を当て込んでいた。

度重なる延期

 上関原発の当初の本体着工予定時期は1号機が2001年度、2号機が09年度とされた。しかし、予定地の買収や地質調査の遅れなどで延期が繰り返され、準備工事もなかなか始まらなかった。

 中電が準備工事に着手した09年4月以降、ようやく受注が本格化した。10年度の原発関連事業は130件で受注額約3億4400万円。造成工事や看板設置、海面埋め立て工事区域を示すブイの設置などの建設関係は62件、同約2億9700万円を占めた。

 「やっと仕事が回ってくる」。業者が期待を膨らませていたことし3月11日、東日本が未曽有の地震と津波に見舞われ、福島の原発で白煙が上がった。山口県の二井関成知事や上関町の柏原重海町長は上関原発についても「慎重な対応」を求めた。事実上の工事中断要請を受け中電の作業は同15日に止まった。

 福島の事故後、組合の建設関連受注は草刈り1件だけ。「公共工事が減り仕事はない。町内業者が続けてきたのは原発工事を当てにしていたから」。別の建設会社の社長(62)は苦しい実情を説明する。「反対派は原発がなくても生活はできるという。でも、職場がないと人は住めん」

旅館業も打撃

 旅館業にも影響が出ている。工事作業員の利用を期待し鉄筋3階建て16室の旅館を2009年に開業した40代の経営者は「工事が始まれば8~9割の稼働率になると見込んでいた」と打ち明ける。福島の事故後も中電が続ける地質調査の作業員を中心に、現在の稼働率は5割程度。「開業でできた借金が心配」とこぼした。

 「原発立地の波及効果で地元企業は潤い、新規事業の創出につながる。それで町が活性化される。国の方針が分からん以上、推進の立場を維持するしかない」。組合の須磨聖専務理事(56)は厳しい表情で言う。

 原発建設に伴い埋め立てが予定される田ノ浦湾。中電の工事中断後、反対派の監視テントはなくなり、作業員の姿も目立たなくなった。静かな波の音だけが響いている。

経済効果は一過性

 原発立地自治体をめぐる問題に詳しい清水修二福島大副学長(地方財政論)の話 原発誘致の経済的効果は一過性だ。誘致すれば地域の経済構造は変わり、原発への依存体質が生まれる。住民所得が上がり人口減に歯止めはかかるが、次々と原発を新設しなければ維持できない。

 福島の事故を見れば恩恵に伴うリスクは歴然としている。福島では5万人以上が県外に避難した。仕事を失ったのは原発関連にとどまらない。リスクの甚大さを考えても、原発は1地域、1町の雇用や経済のレベルで論じるべきではない。

 過疎地の町づくりは全国共通の課題。上関町より苦しい所は山間部などいくらでもある。原発は政治的な状況変化で、新設計画だけでなく稼働中もすべて止まる可能性がある。住民はじっくり今後を考えるべきだ。

(2011年8月31日朝刊掲載)

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