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社説・コラム

安保法案で論点 機雷掃海の現実は 朝鮮戦争時に従事・今井鉄太郎氏

 集団的自衛権行使を可能にする安全保障関連法案の論点の一つに、ホルムズ海峡での機雷掃海がある。中東からの原油輸送途絶が行使条件の存立危機事態に当たるのか見方は分かれ、参院の審議でも焦点になっている。海上自衛隊は1991年、湾岸戦争停戦後のペルシャ湾に掃海部隊を派遣した実績がある。「戦時」での任務の危険性や実現の可能性は―。呉基地に勤務し機雷除去の経験がある2氏と、安全保障の専門家に聞いた。(小島正和)

朝鮮戦争時に従事 今井鉄太郎氏

常に緊張 リスク対策を

 終戦後、復員省の掃海部隊に入り、主に瀬戸内海で掃海作業をした。日本近海に日米両軍が残した機雷は計6万1500個あった。日本の復興と現在の繁栄は、多くの作業従事者の地道な努力と犠牲が基礎になっていると言ってよい。

 朝鮮戦争時の1950年11月、朝鮮半島沖の掃海任務のため下関から鎮南浦へ赴いた。直前の10月、同じ半島沖の元山で任務に当たっていた第1次部隊の掃海艇が触雷し、犠牲者が1人出ていたことは知っていた。「第1次部隊の二の舞いはごめん」。そんな恐怖があった。敵地ではいつ砲弾が飛んできてもおかしくない。近くに米軍の船はいたが、最終的には自分で身を守らなくてはいけない。常に緊張感があった。

 現在、参院で安全保障関連法案を審議している。自衛官は行けと言われたら行く。ただ、単なる駒と思ってほしくない。「行く」仕組みを整えるのはいいが、「行け」と言わずに済むように努力するのが先だ。やたらに自衛隊を送り出してはならないし、隊員のリスクを減らす手だても講じてほしい。

 原油の輸入が止まったら日本が立ちゆかないのは自明のこと。ならばホルムズ海峡に機雷がまかれる状況にならないよう努め、さらに代替の輸入ルートを確保するのも政治の仕事だ。

 日本には個別、集団的に関わらず自衛権はあると思う。だが「伝家の宝刀」であり、抜く政治の責任は重い。どれほどの覚悟があるのだろうかと思う。

いまい・てつたろう
 1925年、下関市生まれ。海軍、復員省などを経て海上自衛隊入り、掃海艇艇長などを務めた。呉市。

元1術校掃海機雷課長 松藤信清氏

上空は無力 護衛艦必要

 機雷は低コストで相手に物理的、心理的に脅威を与えるやっかいな兵器だ。国際法上、敷設も除去も武力行使とみなされる。

 「存立危機事態」。つまり戦時で海上自衛隊の部隊がホルムズ海峡で掃海任務に当たるとすれば、1991年の湾岸戦争停戦後のペルシャ湾での任務よりも危険度は上がる。

 爆発物と向き合う掃海はただでさえ危険な任務。戦時には海中の脅威に加え、海上と空からの脅威を想定する必要がある。仮に攻撃を受けたとする。掃海母艦の大砲で応戦するだろうが戦力としては弱く、航空機には無力といってよい。ホルムズ海峡に退避できる島陰はないのではないか。

 湾岸戦争停戦後のペルシャ湾の任務は、掃海母艦1隻、掃海艇4隻、補給艦1隻と、丸腰に近い編成だった。「戦時」となれば自前で守らなくてはいけない。護衛艦をつける編成が必要となる。

 遠洋航行を想定していない掃海艇が日本から約1万キロ離れた中東へ自力で移動しなくてはならないのは91年のケースと同じ。戦時は途中何が起こるか分からない。現地に到着する前に隊員は疲弊するから、隊員だけ別に空輸する手も考えられる。

 現地での任務自体、海自は十分こなす能力がある。現在、実機雷を使って訓練をしているのは世界で海自だけだ。実際に任務があり得るか否かは別として、海自が活動できる法を整備をしたことは米国にとってありがたいことだろう。

まつふじ・のぶきよ
 1948年、長崎県佐世保市生まれ。海上自衛隊第1術科学校(江田島市)の掃海機雷課長、由良基地分遣隊長などを歴任。呉市。

中京大教授 佐道明広氏

派遣の事態 考えにくい

 ホルムズ海峡に誰が機雷を敷設するのか。イランは米国などと核問題の包括的解決策で最終合意した。短期的に差し迫った危機があるとは思えない。

 仮に機雷敷設という事態になったとする。「現に戦闘行為を行っている現場」に政府は自衛隊は出さないという。戦時に「ここまでは安全。ここからは危険」と境界を定めることができるだろうか。

 冷戦後、国際秩序は不安定になった。中期的には過激派組織「イスラム国」のような勢力が、「ホルムズ海峡に機雷をまく」と脅すような事態も考えられないわけではない。ただ、イラク戦争に懲りた米国が予防戦争を仕掛けるとは考えにくい。日本が米国に追随して集団的自衛権を行使する事態にはならないのでは。国連安保理決議に基づく集団安全保障の枠組みの中で派遣する方がしっくりする。

 エネルギー輸送路のシーレーン封鎖は日本だけの問題ではない。国際秩序を力で変えようとする動きに各国が連携、対処し、日本も相応の役割が求められる。安全保障体制を整える方向性は間違っていない。

 ただ集団的自衛権行使の例に、ホルムズ海峡での機雷掃海が挙がる理由が判然としない。4月に定めた新しい日米防衛協力指針(ガイドライン)の影響もあるのだろう。海自の掃海能力への米国の期待は高い。

 そもそも集団的自衛権行使の条件となる武力行使の3要件はあいまいだ。政府がきちんと判断ができるかが重要だ。

さどう・あきひろ
 1958年、福岡県生まれ。東京都立大大学院社会科学研究科博士課程修了。博士(政治学)。

(2015年8月13日朝刊掲載)

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