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社説・コラム

『潮流』 広島とホロコースト

■ヒロシマ平和メディアセンター編集部長・宮崎智三

 ヒロシマ訪問を楽しみにしていたに違いない。俳優として舞台に立つこともある、米国アリゾナ州立大准教授のアニー・デュトワさん(44)である。滞在中、研究テーマでもあるホロコースト(ユダヤ人大虐殺)について、エネルギッシュに被爆地の若者との意見交換を重ねた。

 広島には、ピアニストである母の演奏会に出演するため訪れた。平和記念式典に参列し、小学生2人が読み上げた「平和への誓い」に感銘を受けた。昨年の土砂災害で大切な仲間を失った悲しみから、命の重みを感じ、被爆者の苦しみにも共感を寄せることができた―との内容だ。ホロコーストの悲劇と重ね合わせたからこそ、感動を覚えたのだろう。

 ヒロシマとホロコースト。どちらも第2次世界大戦中に起きた、筆舌に尽くしがたい悲劇だ。もちろん、犠牲者の規模や状況は大きく異なっている。それでもデュトワさんは言う。多くの共通点がある、と。

 何より、それぞれの記憶を次世代につないでいく必要がある。若者との意見交換でも、その点を強調していた。70年の節目を過ぎ、あらためて、その重みを感じている。

 欧州の現状に対する強い憂慮も指摘していた。ユダヤ人やイスラム教徒への差別をあおる極右政党が、各地でじわじわ浸透している。中には、ホロコーストが起きたこと自体を否定する人さえいる。

 今を生きる私たちの基盤となっている歴史。証言者がいなくなれば、忘れ去られるだけでは済まなくなるかもしれない。都合の良い解釈で事実を曲げようとする動きが広まることがあってはなるまい。それは、欧州に限った話ではない。

 傍観者にはならず、悲劇をいかに語り継いでいくか―。被爆地の役割に期待するデュトワさんの呼び掛けに、若者たちがどう応えるか。ともに模索を続けていきたい。

(2015年8月13日朝刊掲載)

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