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社説・コラム

『記者縦横』 被爆者の言葉 残したい

■松江支局・松島岳人

 「私たち被爆2世が語り継いでいかないと、原爆の歴史がなかったことになってしまう」。7月下旬、島根県被爆二世の会が松江市の県民会館で開いた原爆展で、写真家吉田敬三さん(54)=東京都=に出会った。直接聞いた言葉に、はっとさせられた。

 母親が長崎で被爆した吉田さん。かつて戦場カメラマンとしてアフガニスタンなどを渡り歩いた。「2世の自分も戦争と関わりがある」と考えるようになり、2003年から全国を巡って、2世の姿を撮影する。

 職場で、慰霊碑の前で、そして自宅で…。さまざまな健康への不安を抱えながらも、明るく生きる2世の今を写真に収める。松江でも笑顔の52人を展示した。

 作品が飾られた一角は、2世や被爆者が語らい、交流を深めるスペースになっていた。吉田さんは「風化が進むのは私たちの責任。自分自身が継承のキーパーソンだということを再認識した」と話してくれた。

 2世の人たちの継承への真摯(しんし)な姿勢に頭が下がる。記者として何とかサポートしたいと強く思った。

 私の2歳の長男は8月6日、広島市の平和記念式典の中継を見て、テレビの前で黙とうしていたという。人々の真剣な表情に、2歳なりに思うところがあったのだろう。

 彼らが大きくなったとき、実際に被爆者から話を聞く機会があるだろうか。その世代が語り継いでいく被爆者の言葉を残さなければならない。子の父親としても、あらためて思う。

(2015年8月14日朝刊掲載)

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