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社説・コラム

天風録 「ブナの翼」

 ブナの木で戦闘機を造れ。戦局が悪化した日本で命が下る。とにかく、金属が足りないと。西中国山地の奥深くでは巨木が次々と切り倒された。あの戦争に動員されたのは人間に限らなかった▲尾翼製造で白羽の矢が立ったのが現在の廿日市市にあったマルニ木工。不眠不休の末に文字通り、木に竹を接ぐ試作品ができた。ジュラルミンに負けぬ強度を生んだという技術はさすがだが、現実にどこまで戦えたか▲今の感覚なら信じがたい「代用兵器」の史実を調べ直し、書き継ごうとしているのが地元の郷土史家で79歳の堀ちず子さんだ。植民地下の朝鮮から特攻志願した学徒兵のルポに挑むなど、戦争の実相と向き合ってきた▲瀬戸内の島に生まれ、年の離れた姉は広島に嫁いで幼子がいた。あの朝爆心地近くで一家は消息を絶つ。炎に焼かれたのか、土の下に眠るのか今も考えるという。敵は原爆なのに木や竹で立ち向かった愚かさとともに▲その反省は安倍談話にどこまであろう。堀さんはこうも声を強める。昔も今も資源がないのは同じ、だから戦争をできる国にも加担する国にもしてはいけないと。きょう終戦70年。「ブナの翼」が本当に飛び立つのは見たくない。

(2015年8月15日朝刊掲載)

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