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オペラ演出で再び舞台に 広島の宮脇さん 闘病・広島土砂災害を経験…被爆70年で原点回帰「平和の尊さ伝えたい」

 市民オペラの演出などを手掛けてきた広島市安佐南区八木の団体職員、宮脇百合江さん(59)が今夏、再び舞台に戻ってきた。闘病で6年前を最後に現場から離れていたところ、昨年8月に広島土砂災害で被災。半年近く不眠や無力感に悩まされたが、被爆70年に「平和の尊さを伝えたい」との思いを強めライフワークを取り戻した。(樋口浩二)

 今月上旬に中区であった、被爆作家原民喜の平和の願いを音楽と朗読で発信する舞台。「ヒロシマのデルタに青葉したたれ」。フィナーレに民喜の詩に曲を付けた「永遠のみどり」(尾上和彦さん作曲)を約100人が歌い上げると、訪れた約680人が3分にわたり拍手でたたえた。宮脇さんも登壇し、満面の笑みで一礼した。

 宮脇さんは中区のエリザベト音大を卒業後、歌手の道を歩み、「はだしのゲン」のオペラにも出演した。その後、演出で手腕を発揮し、市民オペラの舞台演出に関わってきた。ただ12年前に卵巣がんが見つかり、その後、「引退」を覚悟した。

 昨年8月20日の災害では、阿武の里団地にある自宅が床下浸水。隣家をはじめ近所では犠牲者が続出した。公営住宅に仮住まい後、年末に自宅へ戻ったが、悪夢で夜中に目が覚める日々。35年前から師事する尾上さんから今回の舞台演出を依頼されたが、当初は「何も手に付かない」と断り続けたという。

 転機はことし3月。民喜の詩集を読み、生きる意味を考えた。「生かされた身。できることを少しずつやろう」。仲間と演出の準備を進めるうちに没頭していった。

 「生きる原点に立ち返れた」。公演後、晴れやかな表情で語った宮脇さん。「これからも平和の大切さを発信したい」と前を向いた。

(2015年8月16日セレクト掲載)

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