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社説・コラム

『ひと・とき』 「はだしのゲン」のイタリア語版翻訳を手掛けた マルチェッラ・マリオッティさん 完全版制作 意義深い

 「単なる翻訳とは違う、非常に意義深い仕事だからこそ、やると決めた」

 イタリア・ベネチアのカ・フォスカリ大で日本文化や日本語翻訳を教えながら、故中沢啓治さんの原爆漫画「はだしのゲン」のイタリア語版制作に力を注ぐ。現在7巻分が終わり、来年までに全10巻分が現地出版社から刊行予定だ。これまで英語のダイジェスト版をイタリア語訳したものはあったが、原典から訳した完全版はなかったという。

 翻訳は、日本の漫画に興味を持つ学生たちを集め、ワークショップで進めた。「戦後70年。漫画を通じて若者が戦争や原爆を学ぶにはいい機会だと思った」。原典のニュアンスを損なわないよう擬音語やスローガン、歌などをどう訳すか学生らと論議。「想像を超える内容に向き合い、平和への認識を高めた」という。

 京都大留学中の1992年、ヒッチハイクで訪れた被爆地が原点にある。教科書で第2次世界大戦終結の象徴として学んだヒロシマの実情に触れ、「しばらく言葉も出なかった」。

 翻訳を始めた頃、日本では学校図書館で「はだしのゲン」の閲覧制限の動きがあった。「確かにショックな内容はある。でもそれが戦争。避けたら何も伝わらない。この漫画がイタリアで普遍的な存在として多くの人に読まれることを願っています」(森田裕美)

(2015年8月18日朝刊掲載)

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