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社説・コラム

『書評』 イラン毒ガス被害者とともに 毒ガス被害者ら支援 思い紡ぐ 活動20年 広島のNPO理事長が著作

 広島を拠点に約20年間、戦争被害者や難民の支援をしてきたNPO法人モーストの津谷静子理事長(60)=広島市東区=が、「イラン毒ガス被害者とともに」=写真=を刊行した。紆余(うよ)曲折を経て、支援の意味を見いだしていく歩みをつづっている。

 前半10年のロシアなどでの医療支援▽イランの毒ガス被害者との交流▽アニメ映画「ジュノー」製作―の三つの柱で章立てした。

 津谷さんは内科医の夫と1994年、ロシア・ウラジオストク訪問から活動を開始。ウクライナの病院やチェチェン難民キャンプに薬や食品を届ける中で、民間の「限界」や紛争の根深さに直面した日々を記す。

 転機は2004年。広島世界平和ミッション(広島国際文化財団主催)に参加し訪れたイランで、イラン・イラク戦争の毒ガス被害者に出会う。そこで「被害の実態を知ってほしい」「治療法はないか」との切実な訴えを聞く。そこから広島とイランの相互訪問や学術研究へとつながる。

 その中で、毒ガス障害に苦しむ女性が広島で笑顔を取り戻した逸話を紹介。旧日本軍の毒ガス工場で働いた人たちの治療に尽くし、イランに同行した故行武正刀医師との思い出も刻む。

 最終章は、被爆直後の広島に医薬品を届けたマルセル・ジュノー博士の信念を伝えるアニメ製作。資金難などを仲間の支えで乗り越え、国内外で高く評価されるに至った経緯に触れた。

 20年の活動を経て、支援は「心の薬」にほかならないという津谷さん。「広島の役割をあらためて確認した20年。支援は希望の種だと知ってほしい」と語る。206ページ、原書房。1512円。(広田恭祥)

(2015年8月20日朝刊掲載)

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