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戦争・震災題材 新たな表現 ヒロシマ・アート・ドキュメント

 広島から美術の新たな表現を探る「ヒロシマ・アート・ドキュメント2011」が広島市中区袋町の旧日本銀行広島支店で開催されている。18回目の今年は4カ国の6人が出展。被爆建物を舞台に、戦争の傷痕や東日本大震災などを題材にした作品が、強いメッセージを放っている。

 古びてボロボロになった男性の写真。隣には、写真の欠けた部分を補ったスケッチが並んでいる。レバノンのガッサン・ハルワニのインスタレーション(空間構成)「ミッシング・メモリー」は写真や絵を並べた簡素な構成から、静かな怒りが伝わってくる。

 レバノンは1975年に始まった内戦によって、今なお多数の行方不明者がいるという。創作の動機は、内戦の記憶の風化への憤り。被爆体験の風化という広島の現状にも普遍する表現だ。

 遊び心のある表現に強いメッセージを込めたのは、堀尾充(広島市)の「ゾエトロープ11」。自転車の車輪の上に並ぶ「逃げる人」を示すマークや数字は、手動で回転させると壁面に影が映り、動く。ゾエトロープは「回転のぞき絵」のこと。11は米中枢同時テロと東日本大震災の象徴。回り続ける人の影は、テロや核の脅威におびえ続ける人類の姿の投影か。

 広島市安佐南区出身の写真家笹岡啓子は平和記念公園(中区)周辺の光景を撮影した代表作「PARK CITY」を展示する。原爆資料館を見学する人々の不鮮明な姿など、現代の広島の「空虚さ」を映し出す作品群。被爆建物である会場のたたずまいとの共鳴を感じた。

 鈴木たかし(広島市)は、色面で構成したミニマルアートとオリジナルの音楽を組み合わせた映像を出品。米国とフランスの作家による映像作品もある。市民有志でつくる「クリエイティヴ・ユニオン・ヒロシマ」(伊藤由紀子代表)の主催。15日まで。無料。開場は午前11時~午後5時。=敬称略(西村文)

(2011年9月10日朝刊掲載)

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