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模索する山口県上関町 町長選・町議補選を前に <上> 見えぬ展望 

 中国電力が上関原発建設を計画する上関町の町長選と町議補選は9月1日告示、6日投開票の日程で実施される。上関原発は福島第1原発事故を受けた作業中断から4年5カ月が経過したが、先行きは見通せない。町長選は、原発推進の立場で3選してきた現職の柏原重海町長(66)が続投を目指すのに対し、反対派は候補者擁立を断念。賛否を町内外に問い続けてきた争いは、1982年の原発構想浮上後、10回目にして初の無投票が予想される。国策に揺さぶられ、住民は困惑と疲弊を色濃くしている。告示を前に、将来像を模索する上関の現状をみる。(井上龍太郎)

交付金想定せず

 町が3月に策定した5年間の町政指針、第4次町総合計画。昨年度までの第3次計画で「整備」と明記した美術館や祝島総合文化福祉センター(仮称)は今回、「整備の検討」に表現を緩めた。

 町は原発建設や関連産業の雇用の拡大を説明したくだりも、削除した。「原子力発電所の建設がどうなるか分からない。電源3法交付金を想定しない計画に改めた」。町職員が背景を明かす。

 推進派が9回続けて町長の座を射止めてきた同町。一般会計の予算規模が30億~40億円台の町には84年度以降、総額約70億円の原発関連交付金が入った。

 町はこの財源を頼りに歯科診療所、小学校プール、温浴施設などを建設した。さらに、上関原発が着工すれば、1、2号機で約86億円ずつの電源立地促進対策交付金を手にし、建設に伴う作業員の需要で住民も潤う―。根強い反対運動を横目に、青写真を描いていた。

工事再開「未定」

 その原発頼みのまちづくりは今、手詰まり感を強めている。中電が準備工事を中断したのは、2011年3月の福島の事故直後。1年後には、「12年6月本体着工、18年3月運転開始」としていた上関1号機の目標を「未定」に変えた。再開のめどは立っていない。

 原発回帰の方針を掲げ、電力会社に再稼働を促す自民党政権。一方で、新増設は「現時点で想定していない」(宮沢洋一経済産業相)とし、明確な方向性を示さないままだ。

 町内の60代男性は「計画は一体どうなるのか。判断を下されないのが一番怖い」とこぼす。住民同士の対立は既に30年を超えた。再開か白紙撤回か。国策のはっきりとした結論を切望する地元の思いは、届かない。

 築60年近い同町長島の町役場本庁舎。災害時の対応拠点となる木造2階建ては、耐震性を確保できていない。雨漏り跡や柱の傾きも目立つ。町は第4次計画に、新庁舎の整備方針を盛り込んでいる。

 整備に充てる基金を07年度に創設。これまでに約9億円を積み立てた。ただ、事業着手の時期は未定だ。

 町総務課は「町の財政は原発に大きく左右される。方向性次第で目指す庁舎の在り方も変わる」とする。15年度も前年度並みに受け取る予定の原発関連交付金約8千万円は、町の予算規模にとって少なくない。待ったなしの課題にも、国策は縛りをかける。

電源3法交付金
 原発など発電施設の建設を推進するため、立地地域の基盤整備を充実させる目的で1974年に制度化した。「電源開発促進税法」「特別会計に関する法律」「発電用施設周辺地域整備法」の3法に基づき、国が販売電力量に応じて電力会社から税金を徴収し、自治体に配分する。道路や教育文化施設、福祉など地域振興策に幅広く使える。

(2015年8月25日朝刊掲載)

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