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社説・コラム

社説 南北高官協議合意 緊張緩和を定着させよ

 4日間に及んだ韓国と北朝鮮の高官協議がきのう、緊張緩和に向けた措置に合意した。北朝鮮軍の挑発と米韓軍のけん制が緊迫の度を増していただけに、北東アジアの平和と安定を願う日本としても歓迎する。

 危ぶまれながらも急転直下、一致点を見いだした。北朝鮮側の異例の譲歩といえよう。

 とりわけ、非武装地帯(DMZ)の韓国側地域で地雷が爆発し韓国軍兵士が負傷したことに対し、北朝鮮が「遺憾」の意を表明したことがそうだ。その本心は必ずしも定かではないが、北朝鮮が過去、韓国に遺憾や謝罪の意思を示したのは朴正煕(パク・チョンヒ)氏在任中に起きた大統領府襲撃未遂事件など4件だけという。

 金正恩(キム・ジョンウン)第1書記自ら緊張をつくり出して自ら収拾する「自作自演」と取れなくもない。

 朝鮮労働党や軍の内部で自らの権力基盤を固めるもくろみはあるはずだ。中国との関係を深めようとする韓国へのけん制ともいえよう。併せて核実験強行などによって冷え込んだ最大の友好国、中国との関係改善を探ろうと懸命なのだろうか。

 しかし前線地帯に「準戦時状態」を宣言し、韓国側の宣伝放送の拡声器を攻撃する構えを見せるなど、そのエスカレートぶりは危険極まりなかった。実際に南北間で一時砲撃の応酬があり、北朝鮮は潜水艦の7割を基地から移動させていたという。外交交渉を武力で威嚇するとは、言語道断であろう。

 南北間には現在、対話のパイプや仲介する第三者機関の存在がなく、ささいな挑発行為がいつ何時、軍事的衝突に拡大しないとも限らない。今回の合意を北朝鮮が直ちに実行に移すことはもちろんだが、南北間で挑発と応酬の悪循環を封じ込めるよう強く求めたいところだ。

 両国は関係改善のための当局者会談をソウルか平壌で早期に開催するほか、9月には朝鮮戦争などで生き別れになった南北離散家族再会へ向けた赤十字間の協議を行うことでも合意した。離散家族再会については、任期5年の折り返しを迎えて新たな成果を挙げたい朴槿恵(パク・クネ)大統領の意向に沿っていよう。

 人道問題であるはずの離散家族再会は、南北の対立に踊らされてたびたび中断した歴史がある。高官協議では難航が予想されていただけに、結果は前向きに評価したい。これもまた、北朝鮮の誠実な履行を求めたいところであり、挑発行為を再開して水を差してはならない。

 一方、安倍晋三首相はきのうの参院平和安全法制特別委員会で朝鮮半島の緊張が一時高まったことに関し「日米同盟がしっかり機能することは、北朝鮮の暴発の抑止に十分に有効だ」と述べた。あくまで外交による抑止と捉えるべきだろう。

 「朝鮮半島有事」に際し、直接の交戦国ではない日本が一方的に参戦することは現実にはあり得ない。これは新たな安全保障関連法案を仮に可決したとしても同じである。しかも韓国の国会は日本の集団的自衛権行使容認について、北東アジアの平和と安定に対する深刻な脅威と見なして反対決議をしている。

 今回の朝鮮半島の緊張を安保法案の「追い風」とする見方があるとすれば、多分に無理があろう。日本としては近隣諸国と連携し北朝鮮に外交圧力をかけ続けるのが筋といえよう。

(2015年8月26日朝刊掲載)

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