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社説・コラム

どう見る安保関連法案 詩人 アーサー・ビナードさん 憲法の役割を外す内容 「国民総主権化」が必要

 多くの学者が法案は違憲だと指摘している。権力の暴走に歯止めをかける憲法の役割を外す内容だ。安倍晋三首相は国会で「無責任な派兵はしない」などと説明しているが、口約束にすぎない。すぐにほごにされてしまう。私には、安倍首相が、自身が憲法よりも偉いんだという「憲法踏みにじりパフォーマンス」をしているように映る。

 安全保障や国防、集団的自衛権…。さまざまな言葉で説明しているけれど、進もうとしている方向は、武器を持って殺し合うのを認める状況だ。もし、朝鮮有事があった場合、自衛隊が米国艦船の護衛に当たったとしても、間接的に戦争に参加することになる。戦争を放棄した憲法9条に明らかに違反する。

政府はごまかし

 米ミシガン州出身。1990年に来日した。原爆の犠牲者の遺品に光を当てた写真絵本「さがしています」の執筆を機に、2011年広島市中区へ移り住んだ。パーソナリティーを務めるラジオ番組で戦後70年や安保法案をテーマに、戦争体験者たちへのインタビューを続けている。

 法案をめぐる国会審議は議論がかみ合っていない。野党の質問に政府は逃げ惑ってごまかしているだけだ。やりとりを重ねても深まっていない。

 典型的だったのは、ポツダム宣言への見解を問われた安倍首相の答弁だった。ポツダム宣言を「つまびらかに読んでいない」と答えた。自らの歴史認識を述べるのを控えた。宣言の内容を問題視している支持層の右寄り勢力と、同盟を結ぶ米国の両方に配慮して逃げたとしか思えない。

積極的に表現を

 法案は参院で審議されている。全国各地で反対運動が広がる中、民主党など野党は、世論を巻き込んで廃案を目指すとしている。

 民主党だけで、国民の危機意識の受け皿になるとは思えない。国民は立ち上がって主権者であることを示さないといけない。憲法がないがしろにされれば、今の社会は変わってしまう。無関心ではなく、あらゆる分野の人があらゆる表現方法を使って積極的に動く。本当の意味での「国民総主権者化」をしなければこの国に未来はない。

 国民が表現の自由を保障する憲法21条を生かして反対の声を上げれば、憲法9条とかみ合わない違憲の法案は通らないはずだ。普段は黙っている人が声を上げれば、政府も放っておけない。世論が動けば、国は変わる。(有岡英俊)

(2015年8月26日朝刊掲載)

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