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社説・コラム

【解説】CTBT発効 なお壁高く

 包括的核実験禁止条約(CTBT)機構準備委員会が、日本初の開催地に広島市を選んだ「賢人グループ」会合。出席者は今なお被爆者の心身を苦しめる核兵器の非人道性にじかに触れ、条約の早期発効に向けた新たな行動を起こす努力を誓った。ただ4回目となった今回も、20年来の懸案の具体的な解決策は見えてこず、ハードルの高さを印象付けた。

 非公開の議論では発効の必要条件となる米国、中国など未批准の8カ国をいかに動かすか、協議したとみられる。「広島宣言」は「原爆の壊滅的な人的影響」に触れた被爆地会合の意義に言及。岸田文雄外相を共同議長に迎える発効促進会議を9月に控え、ラッシーナ・ゼルボ事務局長は議論の進展に意欲を見せた。

 ただ現実は厳しい。米国では、批准を支持するオバマ大統領の国内での求心力が低下。会合に出席したウィリアム・ペリー元国防長官は、任期中の批准は困難との見方を示した。米ロ関係の悪化を理由に「新たな軍拡競争になりかねない。核実験の一時停止状態をいかに維持するか、考えるのが先決だ」とまで語った。

 その米国は1992年を最後に核爆発を伴う核実験こそ中断しているが、臨界前核実験や核性能実験を繰り返し「爆発させていないのでCTBTに抵触しない」との論理を振りかざす。

 CTBT発効は「核兵器なき世界」に向けた現実的な取り組みではある。が、その一歩さえ踏み出せない現状が核兵器禁止条約を求める声の高まりを招いている。国際社会には発効のあらゆる策を探るとともに、核兵器廃絶に向けた新たな法的枠組みについて議論する努力も期待したい。(田中美千子)

(2015年8月26日朝刊掲載)

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