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模索する上関 町長選・町議補選を前に <下> 賛否超えて

 2011年3月の福島第1原発事故の半年後に行われた前回の上関町長選。事故以降、原発の新規立地計画がある自治体で初めての首長選だった。上関原発計画の推進派が推す柏原重海町長(66)と、反対派新人が対決。住民の1票に全国的な関心が集まる中、柏原氏が3選を果たした。

無投票の公算大

 過去9回、原発の是非を争点に繰り広げてきた。反対派は今回、候補者擁立の見送りを決定。推進派が続投を目指す現職柏原氏の支援を決めた中での決断だった。1982年に原発計画が表面化してから初の無投票の公算が大きくなっている。

 「計画は止まっている。反対運動はしていくが、今はまちづくりを優先する時だ」。今月初め、住民団体「上関原発を建てさせない祝島島民の会」の清水敏保代表(60)は、擁立の断念を決めた理由についてこう語った。

 上関原発は前回選挙からの4年間、予定地での準備工事中断が続いた。漁船を使った反対派の抗議行動は収まり、両派の対立も小康状態にある。そこで浮き彫りになったのは、町の深刻な疲弊だ。

 計画浮上2年前の80年、6773人だった町人口。35年がたち、ことし1月時点では半分以下の3190人に減少。中国新聞の調査では、高齢化率53・26%は県内19市町で最も高かった。

 人口の減少は町税収入を直撃。町は高齢化に伴う医療福祉分野の支出増にも苦しむ。32億5900万円を計上した2015年度一般会計当初予算は、実に3億3千万円の財源不足が生じた。町は、「新たな財源確保がなければ、基金は底を突く」と懸念する。

 打開策として町は、風力発電機2基の建設を検討している。推進派の西哲夫町議会議長(68)は「税収を稼がないと生き残れない。国の判断を待つ間は、観光振興と売電収入を目的にした風力発電事業や定住対策を進める必要がある」と強調する。念頭にあるのは、上関原発ができるまでの町の存続。展望が見えない今、賛否の垣根を越えたまちづくりに異論はない。

財源生む「資源」

 自然エネルギーを活用する風力発電は、反対派の理解も広がる。原発建設に備えた町の体力維持を図りたい推進派と、原発に依存しないまちづくりを編み出したい反対派―。思惑は違うが、今を案じ、過疎高齢化に手を携えて立ち向かう素地ができている。

 海岸沿いのドライブルート、祝島や八島などの離島、新鮮な海産物が手に入る道の駅、温浴施設。町外客を呼び込み、財源確保につなげる資源に町は事欠かないように思える。

 盆の夜の室津地区。盆踊りを舞う約40人の姿が漁港にあった。

 傍らには初盆を迎えた10人の遺影が飾られていた。40代の男性は「子どもの頃はもっと広い会場を使い、参加者も多かった。何とかせにゃならんよね」と、踊りの輪を見詰めた。(井上龍太郎)

上関町の風力発電構想
 町が事業主体となり、同町長島の上盛山(314メートル)に想定出力2千キロワット級の風力発電機2基を建設する検討を進めている。再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度を利用した売電収入は、1基当たり年間1億円と試算。自主財源確保のほか、建設に伴う山頂までの接続道や公園の整備で観光振興にもつなげたい考え。

(2015年8月26日朝刊掲載)

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