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社説・コラム

社説 北方領土の70年 対露外交 見つめ直そう

 いまだ問題が解決していないことが残念でならない。70年前のきょう、旧ソ連は、日本人約1万7千人が暮らしていた択捉島、国後島、色丹島、歯舞群島を次々と占領し始めた。そのまま現在まで実効支配している。

 1855年に日露通好条約を結んで以来、北方四島は日本の領土と定まった。しかし第2次世界大戦で広島と長崎に原爆が投下された後、旧ソ連は日ソ中立条約を無視して日本に宣戦布告。日本がポツダム宣言を受け入れた後、北方四島を奪った。

 日本政府が主張する通り、国際法違反の不法占拠であり、許し難い。それから日本とロシアの長く根深い対立が始まった。

 今もロシアとは平和条約を結べないままである。国交が回復した1956年の日ソ共同宣言では、平和条約締結後の色丹、歯舞の引き渡しが明記されたが、交渉の停滞が続く。

 「4島返還」を求める日本と「2島引き渡し」で済ませようとするロシアの隔たりは大きい。平均年齢が80歳を超えた元島民の思いはいかばかりか。

 そうして迎えた戦後70年の節目に、あえてロシアのナンバー2の地位にあるメドベージェフ首相が択捉島を訪問した。愛国心高揚を目的にした「青年フォーラム」に先週、出席した。

 プーチン大統領の意向だろう。あらためてロシアの実効支配を誇示し、北方領土は第2次世界大戦における正当な成果との立場を、内外に強く発信したかったとみられる。到底、容認できない。

 しかもロシアは今月に入り、北方四島を含むクリール諸島の発展計画を正式に承認。インフラ整備と人口増加を進める。4島のなし崩しのロシア化を受け入れるわけにはいかない。

 そうした領土への強い野心は70年前も今も、相通じるものがある。クリミア半島の一方的な編入をはじめとするウクライナへの軍事介入がそうである。ロシアは欧米の経済制裁を受け、庶民の生活は苦しくなる一方だ。今回の訪問は、国民の愛国心を刺激し、政権への求心力を高めようとする狙いもあろう。

 一方で、プーチン大統領は2013年の日ロ共同声明で、安倍晋三首相と領土交渉の「再スタート」を宣言したのではなかったか。ことし6月にも、北方領土について「全ての問題は解決可能だ」と明言。両政府ともにプーチン大統領の年内来日を目指して、調整を重ねてきた。

 その積み重ねに、今回の訪問は冷や水を浴びせた。8月末で調整していた岸田文雄外相の訪ロを延期するのは当然だ。

 安倍首相は「極めて遺憾」とした上で、プーチン大統領との対話を続ける意向を示している。政府は「年内訪日」を引き続き模索するようだ。だが、挑発的な振る舞いが続く以上、ロシアとの向き合い方を仕切り直す必要はないだろうか。

 言うまでもなく、プーチン大統領の訪日が、目指すべき到達点ではない。安倍首相はプーチン大統領とのホットラインを保ちながらも、領土問題や挑発的な行為に対しては毅然(きぜん)として対応すべきだろう。

 核兵器をちらつかせて威嚇する姿勢にも異議を唱え、ロシアが国際社会と協調するよう粘り強く求めるべきだ。互いの誠実な関係づくりの先に、領土交渉の道筋も開けてこよう。

(2015年8月28日朝刊掲載)

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