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社説・コラム

『書評』 郷土の本 パット剝ギトッテシマッタ後の世界へ ヒロシマ問う根本的な思考

 広島市立大国際学部で哲学を講じる柿木伸之准教授(45)が、近年の論考や評論を集めた「パット剝ギトッテシマッタ後の世界へ」=写真=を刊行した。2002年に同大に着任して以来、ヒロシマをめぐって重ねた思考の跡を刻む。

 のちに代筆者の存在が分かった被爆2世の作曲家をもてはやした例など、ともすると安易、無批判に受け入れられてきた「ヒロシマの物語」を問う論考が並ぶ。市民に開かれた討論会や講演で発表したものが中心。沖縄や福島などさまざまな地の苦難にも思いをはせ、人々が連帯するための課題へいざなう。

 タイトルは、被爆作家の原民喜が小説「夏の花」に記した一節にちなむ。表層的な論議の下に埋もれた歴史や記憶を掘り起こし、根本を突き詰める思考を―。そんな呼び掛けが響いてくる。270ページ、2268円。インパクト出版会。

(2015年8月30日朝刊掲載)

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