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社説・コラム

『書評』 郷土の本 ヒロシマ8月6日、少年の見た空 子奪った原爆 母の叫び悲痛

 当時12歳の長男を広島の原爆で失った家族の物語が、被爆70年に合わせて子ども向けノンフィクションとして刊行された。「ヒロシマ8月6日、少年の見た空」=写真。原爆の残酷さとともに、家族の絆について深く考えさせる一冊だ。

 広島一中(現国泰寺高)1年生だった三重野杜夫さんをめぐる思い出を、姉の茶本裕里さん(86)=東京都=が証言し、旧知の井上こみちさんが文章化した。絵は、すがわらけいこさん。

 杜夫さんは爆心地から約900メートルの学校の近くで、建物疎開中に被爆。家族は連日、焦土の街で捜し回ったが、消息はつかめなかった。母はしばらく夜も玄関の鍵をかけなかった。「どんな姿になっていてもいいから、命をもって帰ってきて」―。後に茶本さんが見つけた母の日記には、悲痛な叫びが記されていた。

 今夏も広島一中の慰霊祭に参列した茶本さんは「広島に来ると、いまだに弟が歩いてはいないかと思う」と語る。104ページ、1404円。学研教育出版。(道面雅量)

(2015年8月30日朝刊掲載)

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