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在外被爆者へ賠償用意 厚労省、協議で正式表明

■記者 道面雅量

 日本国内に住んでいないことを理由に被爆者援護法に基づく援護が受けられなかった在外被爆者への国家賠償をめぐり、韓国やブラジルの被爆者団体との協議で厚生労働省は11日、裁判を起こしていない人についても「国を相手に裁判を起こしてもらえれば和解後に支払う」と、賠償する用意があることを正式に表明した。しかし、被爆者側は「行政の手続きだけで支払うべきだ」と求めた。

 韓国原爆被害者協会の金龍吉(キムヨンギル)会長(67)、在ブラジル原爆被爆者協会の盆子原国彦理事(68)らが出席した。

 昨年11月、広島市の旧三菱重工業の韓国人元徴用工らが国などを相手取った裁判で、在外被爆者を援護の対象外とした旧厚生省通達を違法とし、原告1人当たり120万円の国家賠償を命じる判決が最高裁で確定したのを受け、「違法通達で損害を受けたのは全員に当てはまる。提訴を待たず、主体的に賠償すべきだ」と原告と同様の賠償を求めた。

 一方、厚労省側は「国家賠償の性質上、司法判断は欠かせない。裁判所が事実を認定すれば争わずに和解する」とした。

 協議後の記者会見で、金会長は「海外に住む高齢の被爆者になお訴訟の手続きを強いるのか。最高裁判決があるのに双方にとって無駄だ」と批判。29日までに十分な回答がなければ、約2700人の全会員での提訴も辞さない考えを示した。

【解説】 「提訴条件」説得力欠く 援護法の精神から逸脱

昨年11月の最高裁判決は、違法な通達で在外被爆者を援護の対象外に長年放置した国の怠慢をはっきり指摘した。当然、その責任を取って在外被爆者の損害を速やかに償わなければならない立場のはずの厚労省が、訴訟を起こす負担を被爆者に新たに求めるのは説得力に欠ける。

 厚労省は、最高裁が国に命じた賠償の中身は精神的苦痛への慰謝料であり、「本人が苦痛を受けたと申告することが前提となる」(健康局総務課)という。また、国のお金を払う以上、「提訴を受けた和解という過程が必要だ」と説明する。

 だが、提訴が必要となれば結果的に高齢の在外被爆者が裁判の手続きを取り、場合によっては来日する必要も出てくる。最高裁判決の趣旨からも、今年6月の改正で来日しなくても被爆者健康手帳が取れるようになった被爆者援護法の精神からも、本末転倒ではないか。

 厚労省は和解すれば一律120万円を払うというが、支援者の乏しい欧州の被爆者や、国交のない北朝鮮の被爆者もいる。提訴できるかどうか、置かれた状況の差は大きく、平等な扱いともいえないだろう。

 被爆者の提訴を強いる方法に代わる、何らかの仕組みを編み出すことは、違法な通達を出し、それを放置した厚労省の責務である。

(2008年8月12日朝刊掲載)

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