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社説・コラム

天風録 「母と子のデモ」

 リズムに乗せて若い女性がスローガンを叫ぶ。「鉄砲持つなら水でっぽう」「戦場行くなら球場へ」。手を引かれて歩く幼子はその言葉の意味がよく分かるまい。それでもママの声に合わせ、小さな口を開いている▲安保法制に反対する母親たちがきのう広島の繁華街をデモ行進した。「笑って怒って泣いて、懸命の子育ては戦地に送るためじゃない」と訴える。父親はもちろん若者、戦争を知る80代のお年寄りまで大勢が連なった▲プラカードを掲げて声を上げたり、歌ったり。全国で100万人規模の集会を―との呼び掛けに思い思いの行動で応えた。法案をごり押しする政権に、「民主主義って何だ?」と学生団体が迫り、高校生までもが街を練り歩く▲「公共」を高校の必修にするという。18歳選挙権を控え、主権者教育などを充実させる。だが国会の姿はどうか。法案を強行採決したほか反戦デモの学生を「利己的」と言う議員がいたのでは、手本になるはずもない▲皆が声を上げるデモこそ民主主義―。そんなアピールとともに母子の行進は終わった。何のために歩いたのか知らぬまま、ご褒美のアイスを頬張る幼い顔。戦地を歩かせる日があってはならない。

(2015年8月31日朝刊掲載)

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