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上関町長選は無投票 柏原氏4選 原発計画後初 山口

 任期満了に伴う山口県上関町長選が1日告示され、上関原発建設計画の推進派が支援する無所属現職の柏原重海氏(66)以外に立候補の届け出はなく、無投票で柏原氏の4選が決まった。原発建設計画が表面化した1982年以降、初めて無投票に終わった。

 原発計画浮上後、町長選は9回とも推進、反対両派の候補者が立ち、全て推進派が勝利してきた。無投票は36年ぶり。原発の準備工事は2011年3月の福島第1原発事故後、中断。その後、凍結状態が続いている。反対派はこの状況を踏まえ、「原発財源に依存しない今のまちづくりに協力する」として候補者擁立を初めて見送った。

 こうした中、柏原氏は原発計画について「国策であり見守るしかない」との立場を主張。過疎や高齢化など町が抱える課題への対応を急ぐとして、定住対策や財政健全化を中心に訴えた。この日は反対派住民が大半の祝島にも船で向かい、賛否の垣根を越えたまちづくりを呼び掛けた。

 4選を決めた柏原氏は、「原子力の見通しは今厳しい。足元を見据えて町政に取り組む」と述べ、観光施策の充実や、風力発電の売電収入による自主財源確保などを進めるとした。政府の新増設方針も不透明な状況にある中、原発財源を想定しない町政運営の確立を迫られることになる。

 町議補選(1人)も同日告示され、推進、反対両派から無所属新人の各1人、計2人が立候補を届け出た。6日に投開票される。(井上龍太郎)

原発は国策 見守るしかない

 柏原町長の話 結果的に無投票となったが、今後も町民には原発の賛否に関わりなく接する。原発の見通しは厳しいが、国策であり見守るしかない。希望的観測を持たず、風力発電事業など足元を見据えたまちづくりを進める。

反対運動続ける

 清水敏保・上関原発を建てさせない祝島島民の会代表の話 過疎化が進み、まちおこしを重視したい考えで擁立を見送った。推進、反対の垣根を越え、原発財源に頼らないまちづくりで力を合わせる。反対運動は当然続ける。

柏原重海(かしわばら・しげみ)氏
 68年上関町職員。原電対策室長、民生課長を経て、03年の町長選で初当選。07年に再選。11年、福島第1原発事故の半年後に3選した。長島。熊毛南高卒。

【解説】原発財源に頼らぬ策を 山口

 山口県上関町の町長選は、上関原発建設計画が浮上した1982年以降で初めて無投票に終わった。過去9回の町長選では計画の推進派と反対派の候補者が争い、町を二分してきた。反対派が候補者擁立を見送った背景には、凍結状態が長期化する原発計画が争点になりにくかった事情もある。30年余り続く対立を避けたこの日を、原発財源に頼らないまちづくりで協力する出発点にしてほしい。

 上関原発は、福島第1原発事故を機に計画が事実上ストップした。原発建設を当て込んだ施設整備や雇用の創出などの将来設計図は今、望めない状況にある。

 対立を続けた間に町は疲弊した。住民約3100人の半分以上は高齢者。反対運動で強固な結束を誇ってきた祝島に至っては高齢化率が75%に達する。反対派は候補者を擁立できなかった、との印象も拭えない。

 無投票で4選した柏原重海町長の次の任期4年に、推進派は原発計画再開までの町の存続、反対派は原発抜きの振興策の定着をそれぞれ描く。長年の争いによる溝は浅くない。それでも古里再生を考え合う過程で、観光資源の再発見や6次産業化による起業など半農半漁の町ならではの可能性を見いだせるはずだ。

 一方、政府は新規立地自治体の現状を直視する必要がある。同町が衰退の一途をたどった主因は、地元を翻弄(ほんろう)し続けた国策にある。住民一丸のまちづくりを妨げるなら、その責任は極めて重い。(井上龍太郎)

(2015年9月2日朝刊掲載)

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