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大久野島の悲劇を記録 東京の樋口さん出版 増補新版 写真集「毒ガスの島」

 大久野島(竹原市)にあった旧日本陸軍の毒ガス製造工場で働き、健康被害に苦しむ地元住民をカメラで記録したフォトジャーナリスト樋口健二さん(78)=東京都国分寺市=が、写真集「毒ガスの島」(こぶし書房)を刊行した。1983年発行の写真集に、ことし撮影した島の様子を加えて増補新版とした。

 長野県出身の樋口さんは59年に上京。川崎市の製鉄工場に勤めた経験から、公害を取材テーマに定めた。石油化学コンビナートによる大気汚染が深刻だった三重県四日市市のぜんそく患者から大久野島の毒ガス被害を聞き、70年1月、竹原市の忠海病院(現呉共済病院忠海分院)を訪ねた。

 「たった1人の医師がどてらを着て大勢の患者と向き合っていた。これは大変なことだと直感した」。翌日には島に渡り、草にうずもれた工場跡を撮影。学徒動員や戦後処理で島へ通った患者を訪ね、取材は竹原市や三原市、尾道市など瀬戸内海沿岸に広がった。

 約100人の患者に話を聞き、皮膚病や呼吸器系の疾患に苦しむ姿を撮影した写真集は評判を呼んだ。同時に樋口さんは軍人・軍属と民間人の間にあった救済策の格差にも目を向け、雑誌などで問題点を訴えた。

 「国は終始、国際法に違反した毒ガス製造の歴史に背を向け、患者救済に消極的だった。置き去りにされた『棄民』は、東日本大震災による原発被害にも重なる」と樋口さん。再び世に出した写真集を手に、「今は緑濃く、美しい島にも暗い歴史があった。多くの人に過去を知ってもらい、忘却を食い止めたい」と呼び掛けた。(石川昌義)

(2015年9月3日朝刊掲載)

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