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社説・コラム

社説 在日米軍の事件事故 地位協定の改定求めよ

 在日米軍基地のもたらす負の側面を直視せねばなるまい。沖縄県で少女が米兵3人に暴行された事件から、きのうで20年になった。その後も米兵の犯罪は後を絶たず、基地に絡む事故が相次ぐ。周辺住民たちが巻き込まれる現状は変わっていない。

 先月には、うるま市沖で訓練中の米陸軍ヘリコプターが米艦船上に墜落した。米軍機の墜落は、本土に復帰してから46件目という。相模原市の補給廠(しょう)では倉庫が燃え、保管していた酸素ボンベなどが爆発する事故があった。基地周辺の暮らしは常に危険と隣り合わせだと、あらためて思い知らされた。

 少女暴行事件では、日米地位協定の現実が突き付けられた。沖縄県警が逮捕状を取った3人の身柄引き渡しは米軍に拒否され、起訴後になった。日米地位協定は米軍人・軍属の身柄が米側にある場合、原則として起訴まで日本側に引き渡さないと規定しているからだ。

 日米両政府は事件を受け、殺人や強姦(ごうかん)など凶悪犯罪の場合は日本側が起訴前の引き渡しを要請できると合意した。ただ運用の改善にとどまり、米側が「好意的考慮を払う」としただけにすぎない。容疑者を逮捕して取り調べができなければ、それだけ起訴できる可能性が低くなるのは言うまでもない。非道な犯罪を抑止し、住民の安全を守っていく視点に欠けていよう。

 地位協定は日米安全保障条約に基づき、在日米軍にいわば特権を与える規定が盛り込まれている。実際、事件、事故が起きるたび、日本で発生しながら国内法を適用できない、捜査や裁判など主権が行使できないという問題点が指摘され続けてきた。

 にもかかわらず、1960年の発効から一度も改定されていない。日本政府は抜本的な見直しを米軍に求めていくべきだ。

 とりわけ、米軍基地内で米側が運営や管理など必要な全ての措置をとることができる規定は納得し難い。この「排他的管理権」は、事故の原因究明を遅らせる要因になってきた。

 今回のヘリ墜落でも、海上保安庁や沖縄県警には捜査権がない。地元自治体は墜落地点はおろか、事故機の種類も正確につかめない。爆発事故では、火災時には現場が目の前にありながら市消防局は立ち入れず、出火原因の調査権も持てなかった。

 いずれも米軍が原因を調査中だが、日米地位協定には日本政府への報告義務は明記されていない。どれだけの情報を公表するかは米軍に裁量があり、住民や地元自治体が自らの安全を守るための情報すら手にできない可能性がある。沖縄、神奈川の両県知事は、地位協定が今のままなら問題の本質は残り続けると訴える。当然だろう。

 特に沖縄では環境汚染の問題も深刻だ。敷地内で健康を脅かす有害物質を安易に処分したまま返還され、跡地を有効利用できないケースがある。現状では汚染が疑われたとしても、自治体が立ち入り調査できない。

 米海兵隊岩国基地のある山口県はむろん、広島県には3カ所の弾薬庫がある。地位協定の厚い壁は、人ごとではない。

 日米同盟の強化を推し進める安倍政権は、米国との「対等な関係」づくりを強調している。日本の主権すら脅かされている状況を積極的に正そうとしないのは、矛盾してはいないか。

(2015年9月5日朝刊掲載)

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