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小佐古元内閣官房参与インタビュー 提言なかなか届かなかった

子どもの被曝基準に疑問 甲状腺障害 数十人以上か

 子どもへの被曝(ひばく)対策で政府を批判し、内閣官房参与を辞任した小佐古敏荘東京大大学院教授(放射線安全学)が22日までに中国新聞のインタビューに応じた。参与辞任後、国内メディアのインタビューに答えるのは初めて。福島第1原発事故後、放射線防護の専門家として政府に加わりながら1カ月半で辞任に至った経緯を語った。主なやりとりは以下の通り。

 ―内閣官房参与に就任した経緯は。
 3月15日に(東大の教え子の)民主党の空本誠喜衆院議員(広島4区)から電話があった。海江田万里経済産業相(当時)、大畠章宏国土交通相(同)たちが集まった会合で「いろんな形でアドバイスを」と言われた。

 ―担った役割は。
 次々に起こる事態に政府が気付いていないことを中心に議論し提言したが、なかなか届かない部分があった。例えば広報。マスコミ対応は一生懸命やってはいたが、避難者への広報は細かった。順番が違うと随分言ったが改善されなかった。

 ―辞任に至ったのはなぜですか。
 一段落つくまではやるべきだと思っていた。4月に入ると、新たな水素爆発は起こらないなど、これ以上ひどくならないと推定できるようになった。

 校庭の利用を制限する基準として、年間積算の被曝線量20ミリシーベルトに設定したのが最後の引き金になった。子どもには高すぎる。昨年、原発のプラントで働いた数万人の平均の年間被曝線量は1・5~1・7ミリシーベルト。20ミリシーベルトに近い人はいない。

 ―政府内で抗議したのですか。
 この話はほとんど決まった状態のものが回ってきた。20ミリシーベルトならば対策が必要となる学校は十数校で済むが、(より低い基準で)きちんと対応すると約3千校と多くなる。政治判断が随分入った。

 ―辞任の記者会見では涙を流しました。
 こんなむちゃな決定で現地の子どものことを考えると、まったく情けない気持ちになった。こんな強引な決定でなく、もっとできることがあるだろうと。

 ―それが最大の理由ですか。
 (放射性物質の拡散ルートを予測する)緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)が公開されなかったことや、海洋調査の不十分さもある。海洋影響はいまだに正確な情報が少ない。魚を取ってきて検査するのでは不十分だ。全体像を描けず、場当たり的だ。

 ―事故は今も収束していません。被曝の影響をどうみますか。
 チェルノブイリ原発事故では甲状腺がんの発症は約4千人だった。福島では、放出された放射性物質は約10分の1で、食品もある程度制限されていたので、これよりも少ないだろう。それでも、数十人以上に甲状腺がんと機能障害が将来起こるだろうというのが見立てだ。避難経路、人口分布などを見ながら詳細な評価を進めている。(荒木紀貴)

 こさこ・としそう 東京大工学部卒。東大の大学院博士課程修了後、東大助手、助教授を経て2005年から東大大学院教授。国際放射線防護委員会の委員を務めたほか、日米原爆線量再評価委員会の委員、内閣府の原子力安全委員会の専門委員を歴任。広島県府中町出身。62歳。

(2011年9月23日朝刊掲載)

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