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歌人・正田篠枝 占領下でひそかに刊行 原爆歌集「さんげ」発見

親戚が保管 広島で11月展示へ

 広島で被爆し、原爆の惨状を詠み続けた歌人の正田篠枝(しょうだ・しのえ)(写真・1910~65年)が連合国軍の占領下、ひそかに刊行した原爆歌集「さんげ」が広島市内で見つかった。原爆に関する報道や出版が制限される中、逮捕などの危険を顧みずに原爆の悲劇を伝えようとした貴重な1冊だ。

 「さんげ」は、正田が1947年に100部を刊行。連合国軍総司令部(GHQ)の検閲を受けず、手渡しで親類や知人に配った。「ピカッドン一瞬の寂(せき)目をあけば修羅場と化して悽惨(せいさん)のうめき」など100首の原爆詠を収録。実物は、広島ゆかりの文学資料を集める広島市立中央図書館(中区)や原爆資料館(同)も所蔵していない。

 広島市平野町(中区)の自宅で被爆した直後から惨状を詠んだ歌を、正田は犠牲者を弔い、慰めようと「さんげ」にまとめることを思いついた。「死刑になってもよいという決心で、身内の者が止めるのに、やむにやまれぬ気持で、秘密出版をいたしました」と後の歌集でつづっている。

 今回、「占領期の広島の文芸」をテーマに広島市文化協会文芸部会(山田夏樹部会長)が企画展を計画。市内に残る文学資料の掘り起こしを進める中、母親が正田のいとこに当たる作家小久保均さん(81)=広島市南区=が保管していた1冊を見つけ出した。

 11月に市立中央図書館で開く企画展で展示する。原爆文学に詳しい海老根勲実行委員は「原爆文学の出発点に位置する作品の一つ。GHQの検閲を恐れなかった正田の思いを実物から感じ取ってほしい」と話している。(伊藤一亘)

(2011年9月23日朝刊掲載)

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