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「国外でも同じ被爆者」 「高い壁」消え歓声 救済遅れ 政府批判も 在外被爆者に医療費全額支給

 「素晴らしい判決だ」―。海外に住む被爆者(在外被爆者)の医療費全額支給を認めた8日の最高裁判決。広島からも駆け付けた弁護士や支援者たちは悲願だった判決を確定させて安堵(あんど)する一方、救済が遅きに失した日本政府の対応を厳しく批判した。(浜村満大、藤村潤平)

 「上告を棄却する」。最高裁第3小法廷で岡部喜代子裁判長が判決を言い渡すと、弁護団長の永嶋靖久弁護士は大きくうなずいた。支援者たちで埋まった傍聴席からは「よし」と歓声が上がり、拍手も起きた。国内外の被爆者の間に横たわる高い壁が取り払われた歴史的な瞬間だった。

 判決後、東京・霞が関の司法記者クラブであった記者会見。永嶋弁護士は、判決を「シンプルかつ被爆者援護法の趣旨を簡潔に述べている」と評価。「国外に住んでいるだけで、除外の理由にはならないということだ」と強調した。

 今回の判決を受け、一審で原告敗訴となり、広島、福岡両高裁で係争中の同種裁判でも見直しが進む可能性が高い。記者会見に同席した広島訴訟の代理人、足立修一弁護士は「行政側は同種訴訟でも自発的に申請の却下処分を取り消すしかない」との見方を示した。

 在外被爆者はこれまで被爆者健康手帳の交付や健康管理手当の支給など、裁判を重ねて国内の被爆者との格差を埋めてきた歴史がある。韓国の被爆者を支援する市民団体の市場淳子会長(59)=大阪府豊中市=は「一番必要だった医療費の支給が最後に認められた」と、勝訴にもいらだちを隠さない。被爆者が次々と亡くなる現状を踏まえ、「日本政府は危機感を持って一日も早く対処して」と求めた。

 この日の判決は、海外の被爆者にも伝わった。広島訴訟の原告13人のうちの一人で米ロサンゼルス在住の森中照子さん(83)は「住んでいる場所だけで違いがあり、同じ被爆者でも差別を感じていた。ようやく平等に扱ってもらえ、うれしい」と声を弾ませた。今後の医療費支給について「手続きをもっと簡単にしてほしい」と注文を付けた。

(2015年9月9日朝刊掲載)

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