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緊急連載 在外被爆者医療費全面支給 <上> 国、援護行政見直しへ 運用方法にハードルも

 在外被爆者への医療費全額支給を最高裁が8日認めたことにより、国はこれまで背を向けてきた援護行政の見直しに大きくかじを切る。ただ実現に向けては、各国で異なる医療保険制度への対応や自治体の実務の煩雑さなど多くのハードルが立ちはだかる。(藤村潤平)

 「これからの検討課題。今の段階で申し上げられない」。勝訴確定に沸く原告側の記者会見。弁護団長の永嶋靖久弁護士は、今後の在外被爆者への医療費支給のあるべき姿については、率直に難しさを認めた。

 被爆者援護法は、医療費の自己負担分を国が全額支給すると規定する。国は在外被爆者を援護法の対象外とする一方で、年30万円を上限に医療費を助成してきた。2014年度は、2960人に計約5億6千万円を支給した。各国の医療制度の状況を踏まえ、公的保険が乏しいブラジルでは被爆者の要求に応えて民間保険料の助成も選択できた。

 一方で、中国新聞社がことしの被爆70年に合わせて実施した韓国、北米、南米計6カ国の被爆者を対象にしたアンケートでは、在外被爆者だけに設定された医療費の上限額に韓国で36・2%、北米で48・1%、南米で58・6%が不満を示していた。

 今回の判決に従うと、在外被爆者も援護法の対象となり上限はなくなるが、同法を厳格に適用すれば、民間保険料の助成は不可能になる。また、医療制度の違いによる過大な支給を防ぐため、領収書に加えて、日本で保険適用される診療内容かどうかを確認するレセプト(診療報酬明細書)の提出も常に必要になる。

「法の適用 重要」

 訴訟を支援してきた広島大の田村和之名誉教授(行政法)は、領収書で医療費が支給される現行の助成事業の「使い勝手」よりも、援護法の対象であることが重要と指摘する。「助成は、行政の裁量で自由に変えられる。法に基づけば制度として安定し、不満があれば権利を主張できる」とその意義を強調する。

 国は今後、現在は援護法で定められていない在外被爆者の支給手続きの細則を検討することになる。厚生労働省被爆者援護対策室の伊沢知法室長は「被爆者のためにも、しゃくし定規にはできない」と言及。「法令違反にならず、過剰給付にならず、被爆者に過度の負担にならない方法を考えなければいけない」とする。

11日に意見交換

 最高裁判決を受け、11日には在外被爆者を支援する国会議員や市民団体、厚労省が集まり、支給の方法などについて意見交換する予定だ。「被爆者はどこにいても被爆者」―。国内外で最後に残る大きな被爆者援護の格差解消に向け、どうよりよい運用をしていくのか。多くの関係者の知恵の結集が必要となる。

(2015年9月9日朝刊掲載)

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