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現代の芸術存在理由は 戦後70年 廿日市で「TODAY IS THE DAY」展 国内外アート関係者がシンポ

非戦文化つくる力/明確なメッセージを

 戦後70年。現代における芸術の存在理由とは―。その答えを、第一線で活躍する国内外の美術関係者が探るシンポジウムが8月下旬、広島市中区であった。廿日市市のアートギャラリーミヤウチで開催中の展覧会「TODAY IS THE DAY:未来への提案」の関連イベント。(森田裕美)

 シンポは「ヒロシマ マニフェスト」と題し、同展監修者のキュレーター飯田高誉さん、企画した米ホイットニー美術館のデヴィッド・ロス元館長、米ニューヨークを拠点に活躍するアーティスト平川典俊さんたち4人が話し合った。フランス・ポンピドーセンターのカトリーヌ・ダヴィッド副館長はテレビ電話で加わった。約70人が耳を傾けた。

 ロスさんは、「戦争文化」に対峙(たいじ)した欧米のアーティストを紹介し「芸術には非戦争文化をつくる力がある」と指摘。「権力者は、核や武力攻撃を国家の安全保障だとかいろんな理由を持ち出して正当化する。だがそれは倫理的侮辱。原因は戦争自体にある」とした上で、「あなた方一人一人がアーティスト。平和をつくる力と責任があると知って」と呼び掛けた。

 ダヴィッドさんは「展覧会は直接的な表現を好まないが、芸術家が文化を変えるためにはメッセージを明確にする度胸や知識人との協働も必要だ」と述べた。

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 国内外のアーティストたちによる「TODAY IS THE DAY」財団の発起人でもある平川さんは、「意識の振動がリアリティーをつくる。意識を変えなければ世界は変わらない」。飯田さんも同展に触れながら、芸術と政治や戦争をめぐる議論や思考の場の必要性を訴えた。

 同財団がギャラリーと企画したこの展覧会は、「被爆70年の広島で、3・11後にあらわになった近代社会の矛盾をどう捉え直すか」との問題意識に立つ。趣旨に賛同した奈良美智さんら国内外の16作家が出展。被爆地で発表するために選んだり、新たに制作したりした写真や絵画、インスタレーション、映像など24点が並ぶ。

 平川さんは「作家にコンセプトを提案し、ヒロシマで今、未来へどんな提案ができるかを考えながら制作してもらった」と意図を紹介した。

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 ギャラリーの展示室だけでなく、近所にある二つの民家も会場となっている同展。奈良さんは、福島で撮影した写真や、歴史や国家に翻弄(ほんろう)されてきた樺太を訪ねた映像を出展。ヴィト・アコンチさんは、モニターに映る自分を指さし続ける映像作品「センターズ」(1971年制作)を特別リメークした「リ・センターズ」。見る方も自己や自分が身を置く現代社会を、省みずにいられない気持ちにさせる。

 目を引くのが、伊藤隆介さんの二つの映像インスタレーション。「自由落下」は机上のジオラマの空に原爆の模型が浮かぶ。それを小型カメラが撮影し続けている。映像が壁面に大きく映し出されるのは、落下し続ける原爆。根本的問題を宙づりにしたまま、核に頼り続ける人類の愚かさを突くよう。もう一つの「そんなことは無かった」はそのオチのようでつらい。見る者は、小型カメラと共に、爆発した福島第1原発の原子炉内部を精巧に再現したジオラマに迫る。

 私たちがいま考えるべき問題は? 作品群が問い掛けてくる。同展は27日まで。

(2015年9月11日朝刊掲載)

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