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チベット、非暴力の闘い 焼身抗議テーマの映画「ルンタ」 広島できょうから上映

 中国の圧政に抵抗し、チベット人が自らの体に火を放つ「焼身抗議」。池谷薫監督(56)の最新ドキュメンタリー映画「ルンタ」は、支援を続ける呉市出身の中原一博さん(63)を案内役に、非暴力の闘いに込められた思いや背景に迫る。2人は「同じ地球上で、こんな手段でしか抵抗のすべがない人たちがいると知ってほしい」と語る。(余村泰樹)

 チベットは20世紀半ばから、中国の国家支配が及ぶようになり、文化を抑圧されてきた。焼身抗議が始まったのは2009年。中国当局が08年、チベット全土に広がった抗議活動を武力弾圧し、200人以上の死者を出したのがきっかけだ。焼身抗議した人は140人を超えるという。

 1984年のインド放浪中、チベット人に命を助けられた池谷監督。長年、チベットの映画を作りたかったという。相次ぐ焼身抗議にもかかわらず「日本ではほとんど報道されない」と製作に踏み切った。

 注意したのが「チベット人に政治的な話を聞かず、巻き込まない」こと。亡命したチベット人が暮らすインド北部で、中国に拘束されていた人たちを支援する中原さんに協力を仰いだのはそのためだ。

 映画は前半、亡命中のチベット人に取材を重ねる。拷問された元政治犯は「ひどい目に遭っているのは中国のせいではなくそれぞれの業の結果。受けた苦しみを他人が受けることがないように」と語る。池谷さんは「ひどいことをした人さえ許そうとする。利他と慈悲の心に打たれた」と振り返る。

 後半は中国のチベット自治区に入り、焼身抗議の土地にカメラを向けた。「チベット人が命をかけて守ろうとする文化や古里を撮った」。なりわいとする放牧の制限、失われていく伝統的な街並み…。チベット文化の今を映し出す。

 「ルンタ」は「風の馬」を意味し、人々の願いを神仏に届けると信じられている。そのルンタを描いたカラフルな旗や紙が、峠で風にはためく。「幸運を風に乗せ、世界に伝播(でんぱ)させるのが願い」。チベット人の信念を伝える。

 「日本では、最大の暴力である戦争に向かう動きがある」と2人。「われわれはチベットの非暴力の文化にもっと目を向けるべきだ」と力を込める。

 広島市中区のシネツインで12日から上映する。

(2015年9月12日朝刊掲載)

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