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連載・特集

人生と創作…奥深い関わり 広島市現代美術館「ライフ=ワーク」展 

被爆・抑留から日常まで 多様な体験を形に

 出展の作家も表現もあまりに多様で、雑然とした感じは受ける。だがその分、展示を貫くものを読み解く面白さも深い。広島市南区の市現代美術館で開かれている「ライフ=ワーク」展。被爆70年を意識しつつ、人生と創作の関わりを広い視野で捉え、掘り下げている。(道面雅量)

 人生とも、生活とも、命とも訳せる「ライフ」。展示作品には、さまざまな文脈でそれが立ち現れてくる。

 13人の作家に先立ち、冒頭に並ぶのが被爆者による「原爆の絵」だ。1974年にNHK広島放送局が募ったのを機に、収集されてきた原爆資料館の所蔵品。48人による50点を選び、展示している。

 原爆被災という極限の「人生」体験が描かせた絵。あの光景を伝えたい、伝えねばという必死さが、描写のたどたどしさも絵の力に転化させ、胸に迫る。

 続く香月泰男と宮崎進の絵や立体には、それぞれのシベリア抑留の経験が反映している。美術家を突き動かした、これもまた極限的体験の表現だ。

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 四国五郎もまた、戦争と抑留を経験した画家。四国の場合、広島に復員して知った弟の被爆死も、画業に強く影響した。被爆前後の弟の日記をモチーフにした作品は、他者や死者の人生も創作の源泉になることを証す。

 82年生まれの後藤靖香が力強い線で描く「芋洗」は、祖父の従軍時の記憶が主題。先人の体験を丁寧にたどり、伝承するような後藤の作風は独特で、美術表現の可能性を押し広げる。

 殿敷侃(ただし)は、被爆死した父や原爆症で亡くなった母の遺品を精細な点描画にした。シャツ、じゅばん、足袋といった題材が、人生よりさらに具体的な「生活」の趣を帯びて見える。自らの家族と重ねて見る人も多いだろう。母の日用品や被爆者の衣服を撮った石内都の写真にも共通する印象だ。

 展示の中盤で圧倒的な存在感を示すのが、大道あや「しかけ花火」。夜空を一瞬、覆い尽くす花火の豪華さと寂しさが人生の哀歓を映し、その下にひしめくコイやアユ、ドジョウ、ザリガニたちは「命」そのものである。

 花火製造が家業だった大道は、爆発事故で長男が重傷を負い、夫も失う辛苦を経て、60歳から絵の道に入った。鎮魂の思いもこもる大作だ。

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 一昨年に73歳で亡くなった入野忠芳は、被爆体験を昇華させた抽象表現で知られる。本展に並ぶのは、被爆樹を描いた晩年のシリーズなど。傷を負いながらも生き抜く木に、自分の半生も重ねたと思われる。

 咲き誇る藤の一群を描いた吉村芳生の「無数の輝く生命に捧(ささ)ぐ」は、東日本大震災を受けて制作された。タイトル通り、藤の花一つ一つが命の表現だろう。江上茂雄が30年にわたって連作した草花図は、「ライフワーク」の極みを見る思いがする。

 村上友晴の「無題」は、膨大な時間をかけて塗り重ねた黒一色の画面。その荘厳さは、描くことが即、生きることであるような制作態度のたまものだ。このほか、Tomoyaが迷路状のドローイング、大木裕之が映像作品などを出展している。(敬称略)

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 「ライフ=ワーク」展は中国新聞社などの主催で27日まで。14日と24日は休館。

(2015年9月12日朝刊掲載)

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