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社説・コラム

どう見る安保関連法案 東京外国語大大学院・篠田英朗教授

概念曖昧…堅実な運用を 平和追求の姿勢大切

 安全保障関連法案の最大の欠点は、概念の曖昧さだ。存立危機事態などの文言がはっきりしない。曖昧であるということは、拡大解釈の余地があるということだ。時の政権の裁量で良くない方向に使われる恐れがある。ただ、その解釈の幅が大きいから違憲だと断じるのは違うと思う。堅実に運用すればひどいことにはならない。むしろ曖昧なだけに、違憲とも合憲とも言えないというのが、普通の感覚だろう。

 専門は国際政治で、研究テーマは平和構築活動。日本平和学会の理事を務め、「平和構築入門」「『国家主権』という思想」などの著作がある。

 この法が成立すれば、国連平和維持活動(PKO)の任務に当たる自衛隊が、危険にさらされた一般市民たちを助ける「駆け付け警護」ができる。国際貢献活動や日米同盟体制を円滑に運用できるようになるメリットがある。

成立後どう対応

 5月下旬に審議入りして約4カ月。与党は早期成立を図り、民主党などの野党は阻止を目指す。

 国会審議で自民党は説明が稚拙だった。最初から法案のコンセプトをしっかり説明すべきだった。一方、民主党も糾弾の戦術ミスをした。「戦争法案」と位置付けたが、戦争が起きなければ近い将来、「戦争は起きなかったじゃないか」とはね返ってくる。

 法案が採決されれば、成立する可能性が高い。多くの国民は、問題点のある法案が、強行採決されたと受け止めるだろう。その後、市民のスタンスが問われる。訴訟などで、断固違憲だと主張してたたきつぶす方向に動くのか。堅実に運用するなら協力するという立場を取るのか。

懸念の発信 当然

 1999年から広島大平和科学研究センターで14年間勤務。NPO法人ピースビルダーズの代表理事として、広島平和構築人材育成センター(広島市南区)を運営し、平和構築に貢献する人材の育成事業にも携わっている。

 広島市民は平和について確固たるアイデンティティーを持っているという印象が強い。ただ、それが法案反対につながるかというとそうではないのではないか。懸念を力強く発信していくのは当然だ。そのことで、政権運営が慎重になる可能性もある。ただ、それは安倍政権に対して感情的になるのとは違う。

 大切なのは、安倍政権の否定ではなく、懸念を表明し続けながら大局的に平和主義を求め続ける姿勢だ。意見の違いを憎悪に発展させず、平和を共に見いだそうとする営みを続けていけば、それが広島という地域の価値になる。(根石大輔)

(2015年9月13日朝刊掲載)

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