×

社説・コラム

社説 辺野古「取り消し」 作業止めて再び協議を

 法廷闘争も辞さない覚悟なのだろう。沖縄県の翁長雄志(おなが・たけし)知事がついに決断した。

 米軍普天間飛行場の移設先、名護市辺野古沿岸部の埋め立て許可の取り消しに向けた手続きを始めると表明した。おととし前知事が承認した決定を全面的に覆すことになる。

 防衛省が約1カ月の中断を経て先週末、現地での作業を再開したのが直接の引き金になった。その間、県と政府は5回の集中協議を重ねたが、平行線のまま物別れに終わった。

 それを受けての沖縄側の一手である。「ありとあらゆる手段を講じて辺野古に基地を造らせないということの第一歩」と知事は記者会見で覚悟のほどを示したが、心中は複雑だろう。政府との関係が完全に抜き差しならなくなるからだ。

 今後の展開も見通せない。沖縄防衛局への意見聴取などを経て、10月にも正式に取り消す考えでいる。対する政府は対抗措置を取る構えで、地方自治法に基づく知事への是正指示や沖縄防衛局が国土交通省に一時的な効力停止の申し立てをすることなどが念頭にあるようだ。

 対抗措置の応酬の末に司法の場にもつれ込むのは避けられそうもない。ただ沖縄の側にはっきりと勝算があるわけでもなさそうだ。知事は移設が止められるかについて「現時点で言及するのは差し控えたい。全くの白紙だ」とも述べた。

 最大のポイントは前知事の決定について「法的な瑕疵(かし)があった」とする現在の主張が認められるかどうかだ。基地問題の現実というより行政の連続性や手続き論などの方が裁判の争点となる可能性もある。

 過去に県は法廷闘争の難しさを経験している。1995年の少女暴行事件を踏まえ、当時の知事は基地用地の強制使用に必要な代理署名を拒否し、国が職務執行命令を求めて提訴した。結果は1年足らずで知事側の敗訴が確定し、さらに米軍用地特別措置法の改正につながった。

 それでもなお沖縄県が埋め立て反対を貫くのは、選挙で示された「民意」の支えがあるからである。知事が辺野古への移設の是非を問う県民投票にまで言及するのもまさにそのためだ。

 こうまで沖縄を追い込んだ責任は当然、政府の側にある。作業を再び中断し、話し合いを続けるべきだ。まずは先の集中協議で明らかになった課題を整理する必要があろう。

 例えば前知事が埋め立てを許可する際に求めた普天間の「5年以内の運用停止」はどうなったのか。努力を誓ったはずの安倍政権は米国と本格的に交渉する姿勢すら見せない。要するに方便だったということだ。

 普天間周辺はいまだ危険な状況が続くのは政府側も認める通りだ。だが米軍に飛行制限などの申し入れをまともにしているとは思えない。辺野古移設を県民にお願いするにしても、目の前の危険を取り除く努力をしてからの話ではないか。ならば知事側も工事を当面、見合わせることを条件に「取り消し」の矛を収めることもできよう。

 国際情勢も米軍のアジア戦略も変わりつつある。これまで繰り返されてきた「辺野古移設が普天間問題の唯一の解決策」は本当か。そこから解きほぐし、米政府ともあらためて協議するのも必要な段階だろう。

(2015年9月15日朝刊掲載)

年別アーカイブ