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広島平和研 所長空席半年 発信力低下 被爆者ら懸念

 広島市立大広島平和研究所の所長空席が、半年に及んでいる。過去には初代所長に招いた明石康元国連事務次長が東京都知事選立候補のためわずか10カ月で辞任、2年以上トップ不在の事態を招いたこともある。人選にめどは立っておらず、被爆者や平和運動の関係者から「被爆地の発信力低下につながりかねない」との懸念も出ている。(金崎由美)

 浅井基文前所長は任期満了で3月末に退任した。市立大は現在、青木信之副学長を委員長とする選考委員会で後任探しを続ける。暫定措置で浅田尚紀学長が所長を兼務する。

 浅田学長は所長の条件として研究実績に加え大学教育や管理・運営面の手腕を求める。市には「平和行政の助言役」としての期待もある。浅田学長は「現職を辞して就任してくれる人を探すのは容易でない」と難航を認め、本年度中に選定できればとする。

 所長選任をめぐる市立大の動きはなぜ鈍いのか。浅井氏の任期が昨年度末までと分かっていながら選考委を設けたのは年度が改まった5月。青木副学長は「昨年度、公立大学法人へ移行し、人事規定見直しに時間を要した」と説明する。一方、平和研内部には市との関係がしっくりいっていなかったのが影響したとの見方がある。

 4月に退任した秋葉忠利前市長はオバマ米大統領の核兵器廃絶提案に賛同し「オバマジョリティー」キャンペーンを展開。これを浅井氏は「米国の核政策に無条件の合意を与えてしまう」として公然と批判するなど市の平和行政に疑問を呈した。

 そのため関係者は「当初は秋葉氏が4期目を目指すとみられていた。大学が市側の意向を探るうち人事が先延ばしになったのでは」と推測する。

 所長空席の事態に、平和学が専門の岡本三夫広島修道大名誉教授は「被爆地の平和研究拠点として世界有数の機関を目指すべきなのに、専門でない学長の兼任が続くようでは」と指摘。県被団協の坪井直理事長は「被爆者の体験を体系的に研究し世界に発信する役割を期待している。早く体制を固めて取り組みを」と注文する。


<広島平和研究所の所長をめぐる経緯>

1998年4月 広島平和研究所が広島市立大の付属機関として開所。初代所長に明石康氏(元国連事務
         次長)が就任
1999年2月 明石氏が東京都知事選立候補のため辞任
2001年4月 第2代所長に福井治弘氏(前南山大教授)が就任
2005年4月 第3代所長に浅井基文氏(前明治学院大教授)が就任
2011年3月 浅井氏が任期満了で退任

(2011年10月3日朝刊掲載)

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