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社説・コラム

『書評』 大衆文化に見る原水爆 平凡社が「漫画コレクション」 1950~70年代の20編

 戦後日本で多様な発展を見せた漫画は、被爆体験など原水爆をめぐる事象も取り上げてきた。平凡社から今夏刊行された「原水爆漫画コレクション」(全4巻)=写真=は、1970年代初頭までに描かれた秀作20編を集成。日本社会が原水爆をどう捉えてきたか、大衆文化の視点で検証する手掛かりにもなる。

 55年までに発表された最初期の作品を収めるのが第1巻。最も早いのは、雑誌「少年少女冒険王」53年1月号付録に載った手塚治虫「太平洋X點(ポイント)」だ。原水爆に次ぐ新型爆弾の実験が、太平洋の島で島民を強制移住させて進むのを、元ギャングの男が命懸けで阻む物語。54年3月の第五福竜丸事件より前に本作を描いた手塚の先見性に驚く。

 その第五福竜丸事件をドキュメントしたのが、花乃かおる「ビキニ 死の灰」。54年11月、当時流行した貸本漫画の形で発表された。事件が社会に与えた衝撃を映し出す。

 父を広島の原爆で亡くし、自らも黒い雨を見たという谷川一彦の作「星は見ている」は、第2巻に収録された。少女誌「なかよし」の57年1~12月号に連載された長編。原爆で両親と引き裂かれた少女の物語は、被爆者や家族に「星」ではなく人間社会の目を届けたい、という作者の祈りのようでもある。

 第3巻に収まる「消え行く少女」は、「カムイ伝」など社会派作品で名を成す白土三平が59年に発表。原爆症の少女とともに、戦時中に日本に強制連行された朝鮮人がキーパーソンになる骨太の物語だ。

 第4巻は、学生運動が高揚した60年代の作品を中心に収め、表現も先鋭化する。「ベルサイユのばら」で知られる池田理代子の「真理子」は、悲恋を通じて原爆と戦争を告発し、林静一の「吾が母は」は、原爆で目を焼かれたカエルの姿に託し、戦後日本の対米従属を問う。

 全巻を通して編集した山田英生さんは「原爆ではなく原水爆漫画というくくりにすると、『はだしのゲン』(73年に連載開始)の前史にあった多様な表現がいっそう見えてくる」と話す。福島第1原発事故を扱った漫画も次々に生まれている今、意義ある「発掘」といえそうだ。

 近代日本史研究の成田龍一さんらによる解説も充実している。各巻3024円。=一部敬称略(道面雅量)

(2015年9月15日朝刊掲載)

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