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どう見る安保関連法案 「軍拡の流れを助長」 深まらぬ与野党議論 識者発言まとめ 

9条 見解割れる 安保法案参院委可決

 集団的自衛権行使の解禁を柱とする安全保障関連法案が17日、参院特別委員会で可決された。中国新聞のインタビュー連載「どう見る 安保関連法案」に登場した識者の発言には、法案が違憲であるとする主張や政府は説明不足だとする指摘が相次いだ。

違憲論争

 戦争放棄と戦力不保持をうたう憲法9条の解釈を変更し、集団的自衛権の行使を認めた政府の手法に評価が分かれた。

 早稲田大の長谷部恭男教授は「法案は集団的自衛権の行使が許されるとした点で憲法違反だ」と強調。その理由として「9条をめぐる従来の政府見解の基本的な論理の枠内では説明がつかない」と述べた。

 慶応大大学院の山元一教授も「違憲の色が濃い」とみる。一方で、個別的自衛権や自衛隊を認めた1972年の政府見解も「解釈改憲」だが、今は定着していると指摘。「国際環境の変化に対応し、9条の解釈を変更する選択肢は否定されるべきではない」とした。

 これに対し、合憲性を訴えたのは駒沢大の西修名誉教授。「集団的自衛権の行使は憲法解釈の問題ではなく、政府の政策判断上の問題」と主張する。根拠として、9条は自衛権の行使を全く否定していない▽集団的自衛権は国連憲章で認められている―と説明した。限定的な行使であれば「明白に憲法の許容範囲だ」と結論付けた。

国際情勢の変化

 国の安全を守るために法整備を急ぐ必要があるとの意見の一方、法が戦争のリスクを高め、軍拡の流れを助長するとの声もあった。

 広島修道大の佐渡紀子教授は「米国の抑止力が低下する中、北朝鮮が進める核兵器の開発や中国の急速な軍拡は脅威」と説明。その上で「法案は米国との同盟関係を強化し、日本を守る選択肢が増える点で一定の意味がある」と評価した。

 次世代の党の平沼赳夫党首も「中国はこの26年間で国防費を約40倍に伸ばし、尖閣諸島や南シナ海に進出する動きを見せている」と危惧。日本を取り巻く安全保障環境は「危機的」であるとし、「必要最小限の自衛力は持っておかねばならない」と述べた。

 一方、元廿日市市長の山下三郎氏は「法案は米国との同盟関係を強めるが、同時に、米国の始めた戦争に巻き込まれる可能性が高まる」と懸念。軍事ジャーナリストの前田哲男氏は「米軍と自衛隊が平時から一体運用を図り、ミサイル防衛を強化しようとすれば、北朝鮮は軍拡に向かう危険がある」と分析した。

審議の進め方

 法案への賛成、反対派を問わず、国会での与野党のやりとりを批判する声が相次いだ。

 集団的自衛権の行使要件である「存立危機事態」については、多くが分かりにくさを指摘。東京外国語大大学院の篠田英朗教授は「法案の最大の欠点は概念の曖昧さだ。時の政権の裁量で良くない方向に使われる恐れがある。国会審議で自民党は説明が稚拙だった」とした。

 詩人のアーサー・ビナード氏は「国会審議は議論がかみ合っていない。野党の質問に政府は逃げ惑ってごまかしているだけだ」との印象を述べた。法案の早期成立を望む元海上自衛隊ペルシャ湾掃海派遣部隊指揮官の落合畯(たおさ)氏も「日本の安全確保にピントを合わせた議論を」と不満を漏らした。

 NGO(非政府組織)「難民を助ける会」の長有紀枝理事長は、国の「自衛」の在り方と、国連平和維持活動(PKO)などの「国際協力」は別々に語られるべき問題だと訴えた。

(2015年9月18日朝刊掲載)

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