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連載・特集

安保法成立 地域の波紋 <1> 隊員の胸中

任務拡大 覚悟と懸念 呉基地から出動増も

 日本の安全保障政策が大きく転換する。安全保障関連法が19日に成立。禁じられてきた集団的自衛権の縛りが解かれ、自衛隊の活動は質も範囲も大きく拡大することになる。海上自衛隊呉基地などの隊員は今何を思うのか。市民の生活、意識にどんな影響が及ぶのか。地域に広がる「波紋」を追う。

 隊員約5700人を擁する呉基地(呉市)。母港としている艦艇は39隻で、全国に五つある基地で最も多い。随時任務で出航していくため全艦艇がそろっているわけではないが、それでも桟橋や狭い呉湾に輸送艦や補給艦、護衛艦、潜水艦などがひしめく。「多種多様な艦艇を抱えているから、新たな法の下で呉からの出動は増える」との見方がある。

東シナ海念頭

 「粛々と命令に従うだけだ」。隊員の多くは安全保障関連法の成立を冷静に受け止める。40代男性隊員は「法制が整えば抑止力が高まり、むしろ安全になる」と言い切る。念頭にあるのは東シナ海の情勢。海洋進出を活発化させる中国へのけん制になるというのだ。

 呉基地では、1991年の悔しい思いが今も語り継がれている。自衛隊初の海外実任務として、掃海部隊が湾岸戦争停戦後のペルシャ湾に赴き、機雷掃海に取り組んだ。命懸けの任務だったが「ようやく重い腰を上げた」と冷ややかな視線を投げかける他国の部隊もあったという。「金は出すが汗を流さない」との批判はとりわけこたえたと伝わっている。

 米軍との共同訓練への参加経験がある別の隊員は「一国では自国を守ることはできない」「日本はできませんでは世界に相手にされなくなる。防衛システムの何から何まで自前で整備しなければならなくなる」。世界標準に近づいたと受け止める。

 とはいえ、戸惑いや懸念がないわけではない。40代男性隊員は唯一、法の分かりにくさが不安という。存立危機事態、重要影響事態といった基準の不明確な事態が複数ある。「共同行動する他国が、自衛隊はここまではできるが、ここからはできないと認識してもらえるか。緊迫した局面で混乱しないか不安だ」

リスクを軽視

 別の40代男性隊員は「政治の軽さ」がやりきれないという。リスクがあまりにも軽視されているというのだ。一連の国会審議。世論の反発を恐れてか、首相も閣僚も確実にあるリスクに真正面から向き合わなかったと感じている。

 「命を失う覚悟はできている。一般国民から犠牲者を出してはいけないと思っているからだ。政治家には『国民や国際秩序を守るにはリスクを伴う。犠牲を担うのが自衛隊だ』と言ってほしかった」と憤る。

 30代男性隊員は「大事な問題なのに本質を突き詰めず、時間を浪費した感がある」と残念がる。政権与党が安全保障政策の転換を急いだ一方、多数の国民が反対、批判を続けている現実がある。

 「事に臨んでは危険を顧みず」と宣誓、命を投げ出す覚悟を決めつつも、割り切れなさが残るという。

(2015年9月20日朝刊掲載)

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