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連載・特集

安保法成立 地域の波紋 <2> 米軍と一体運用

岩国基地 高まる拠点性 負担増や標的化 懸念

 「第31航空群の協力がなければ、こんな大きなイベントを行うことはできなかった。2国間の協力関係を理解してもらう良い機会になった」。5月3日、岩国市の米海兵隊岩国基地と海上自衛隊岩国基地が初めて共催した「航空基地祭・日米親善デー」。ロバート・ブシェー司令官は、基地内で満面の笑みを見せた。

 わずか6日前の4月27日に日米両政府が18年ぶりに改定した防衛協力指針(ガイドライン)を反映し、4カ月半後の安全保障関連法成立を見越したかのような光景だった。パンフレットには滑走路を共同使用する米軍機と自衛隊機があしらわれ、ブシェー司令官と当時の大瀬戸功群司令のあいさつ文が並ぶ。共に触れたのは「日米同盟の強化」だった。

 安倍晋三首相が成立を「対米公約」した同法は、ガイドラインに実効力を持たせ、米軍と自衛隊の一体運用を強める大きな意味を持つ。岩国地区海上自衛隊OB会の古崎進一会長(75)=岩国市由宇町=は「米国は日本を助けてくれるが、日本は助けられないという片務性が解消された。日米関係の強化が戦争の抑止力になる」とみる。

機雷掃海を想定

 同法の国会審議には200時間以上が費やされた。だが集団的自衛権を行使する「新3要件」は不透明なまま。自衛隊による米軍や他国軍への後方支援の活動範囲も広がるが、具体の想定に曖昧さが残る。19日、地元に戻った首相の実弟で自民党の岸信夫衆院議員(山口2区)は「全ての例示を尽くすのは無理。総合的に判断をするとしか言いようがない」と話した。

 海自岩国基地には海自唯一の航空掃海部隊が所属する。政府は集団的自衛権の行使例として中東・ホルムズ海峡での機雷掃海を挙げた。専門家や自衛隊出身者によると、日本の機雷除去技術は国外から高い評価を得ており、部隊が海外で任務に当たる可能性もある。

 岩国基地のそばに住む男性(69)は「基地の役割や隊員の活動がどう変わるのか、まるで見えない」と漏らす。自衛隊側は法成立が任務に及ぼす影響に関し、発言に慎重な姿勢を取る。

艦載機移転予定

 在日米軍再編で米海兵隊岩国基地には、2017年ごろまでに米海軍厚木基地(神奈川県)から空母艦載機59機の移転が予定されている。最新鋭ステルス戦闘機F35の配備計画もあり、極東最大級の基地として拠点性が飛躍的に高まる。基地内や市中心部の愛宕山地区では、艦載機受け入れに向けた施設整備が国の「思いやり予算」で着々と進む。

 「艦載機移転や米軍と自衛隊の連携強化で訓練が増え、騒音もひどくなるのでは」。基地から約1・5キロの同市尾津町に住む岩国爆音訴訟の原告の一人、吉岡光則さん(69)は懸念する。

 固く結ばれた日米の握手の下で、基地のまちの市民が新たに抱える負担とリスク。吉岡さんは自衛隊の任務拡大で岩国が攻撃の標的となる危険性にも言及し、「米軍との一体化で、基地に関する情報がさらに閉ざされる恐れがある」と警戒する。(野田華奈子、増田咲子)

(2015年9月21日朝刊掲載)

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